NHKアナから「職人の道」へ彼女のただならぬ決意 「年齢を重ねることを喜べる生き方がしたい」

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まずは仕事を続けながら、取材で知り合った伊勢根付(ねつけ)の職人・中川忠峰さんのもとへ休日に通い、根付づくりを習い始めた。根付は着物の帯に印籠や巾着袋をつり下げる留め具として愛用された小さな彫刻で、梶浦さんは「元祖・携帯ストラップ」と称している。

その中でも「伊勢根付」は、伊勢神宮近くの朝熊(あさま)山でしか採れない黄楊(つげ)の木を掘り出したもの。江戸時代からお伊勢参りのお土産として人気を博した伝統工芸品だ。

材料となる黄楊(つげ)の木は、自ら伊勢神宮近くの朝熊(あさま)山に登って採りにいく。掘りやすいよう自作した彫刻刀もある(写真:梶浦さん提供)

「伊勢根付」を選んだ理由

数ある伝統工芸の中で「伊勢根付」を選んだのは、中川さんの人柄にほれ込んだこと、そして、細かい彫刻の美しさはもちろん、小さな根付に込められたストーリーや、粋な遊び心にひかれたことが大きい。

「例えば“リス”という作品名なのに、栗の中にいるネズミを掘った根付は“栗鼠(りす)”という漢字にヒントがあります。そんな作る人と使う人の知恵くらべ、みたいな楽しさが面白くて」。落語や昔話を題材にした作品も多く、込められた意味や想いを知れば、より一層、味わい深くなるのが根付の「粋」な楽しみだ。

作品には隠された意図があり、製作者と使う人の「知恵くらべ」が楽しい、と梶浦さん。猿カニ合戦の作品では敵同士なのに仲良く食べる様子が表現されており、込められた意味を伺い知ることができる(写真:梶浦さん提供)

また長期にわたって使い込んで色合いが変わったり、傷がついたりすることを「なれ」と呼び、そこに価値を見出す文化にも共感した。「今の世の中って、一回でも傷がついたらダメ、みたいな風潮があるじゃないですか。そうではなくて、たくさんついた傷さえも美しくて、作品の価値を増すという考え方がすごくいいなと思いました」。

その後、名古屋放送局へ異動となり、仕事の忙しさもあって根付づくりの修行はいったん中断せざるを得なかった。しかし、2009年に結婚したことで、家族と一緒に同じ場所で暮らしたいとの思いが強まり、3年ごとの転勤を免れられないNHKを退社。仕事を辞めてからはフリーでイベントや結婚式の司会を請け負いながら、根付職人の修行にも打ち込んだ。

修行では1つの課題で10個、中川さんから合格をもらえたら、次の課題を掘っていい、となり、順々に難易度の高い作品に挑んでいった。平べったい根付、丸い根付に続いて製作を許されたクリの根付は、10個合格したら初めて販売も許可された。梶浦さんの場合、ここまで1年半かかった。

販売に関しては中川さんに甘えず、自分でどうにかしようと行動。SNSでの情報発信から顧客を開拓し、少しずつ売れるようになった。しかし販売できる作品は数点しかない。

「本気で頑張っているのに、司会業をしている限り、根付は趣味の延長としか思われない。職人として生きる運命をちゃんと背負い、逃げず自分の足で生きていく背中を見せられなければ、伝統工芸に挑戦しようという新しい人たちが出てこないのでは」

そう考え、2012年からは司会の仕事を一切断り、根付職人一本で生きていく覚悟を決めた。

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