人を育てるうえでは、褒めることもしかることも大事だ。ただ、自分自身のことを振り返ってみると、僕の場合、褒められたときの言葉のほうが、人生に決定的な影響を与えているように思う。両親や教師からの言葉も忘れがたいが、社会人になってからも、印象に残っている言葉がいくつかある。
TBSに入社した当初、僕は会社になじめず、人事部長に「間違って入社しちゃったなあ」と言われる始末だった。そして研修期間を終えて配属されたのは、放送用のデータを入力するという地味な部署。報道やドラマなどの現場で活躍する同期を横目に、ひたすらキーボードをたたく日々だった。
「あなた、すごくいいわねえ。これからが楽しみね」
2年目に入ったとき、この部署に番組制作の現場でエースディレクターとして活躍していた先輩が異動してきた。1年ほど経ったとき、その先輩が僕に言った。「若いやつともずいぶん仕事してきたけど、おまえぐらい頭の切れるやつはなかなかいないよ」と。落ちこぼれ意識が強かっただけに、この言葉にはずいぶん勇気づけられた。
その後ラジオに異動。営業を経て、入社5年目に念願の番組ディレクターになった。しかし、最初の数カ月はまったくダメだった。何をやってもうまくいかず、すっかり自信を喪失。何かやろうとしても、人からダメ出しされる前に自分にダメ出しをしてしまって、身動きが取れない状態になっていた。
そんな時期に、番組出演者の評論家・小沢遼子さんが、打ち合わせの後でこんな言葉をかけてくれた。「あなた、すごくいいわねえ。物事を深く考えているし、これからが楽しみね」。この言葉をきっかけに、僕は自分へのダメ出し地獄から抜け出し、自分がいいと思うことをきちんと打ち出すことで、徐々に周囲にも認めてもらえるようになっていった。
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