「自分へのダメ出し地獄」から救う言葉とは 何げない一言が一生の財産になることもある

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こうして考えてみると、褒められたといっても、何か具体的な行動や結果を評価されたわけではない。逆境の中で、それでも総体としての自分を肯定してくれている、そんなふうに思える言葉がいちばん効いた。言った側は何げなく口にした言葉だったかもしれないが、言われた僕にとっては一生の財産だ。

今度は自分が誰かを褒めたい!

さて、そんな僕も気がつけば40歳。今度は自分が誰かに、一生の財産になるような言葉を贈りたいところだ。いま狙っているのは、僕の番組でAD(アシスタント・ディレクター)を務めているT君。なぜならT君は今、彼自身、逆境にいると感じているはずだからだ。

T君は何かとズレていて、しょっちゅう先輩たちに注意されている。たとえば先日、T君が街頭インタビューに行こうとしたら、あいにく録音機材が出払っていた。そこで僕が、私物のローランド社製のレコーダーを貸すことにした。「俺のを貸すんだから、しっかり録ってくるんだぞ」と言ったら、T君は神妙な面持ちで「はいっ、ローランドの名にかけて!」と応えた。そこはメーカーさんじゃなくて、「長谷川さんの名にかけて!」でしょ……。

ミスが続いたT君に真剣なアドバイスのメッセージを送ったときも、返信はなんと一言、「はあ」。これには僕もさすがにあきれ果てた。ところが3分後にT君から「はい! はいの打ち間違いです! 申し訳ありません!」というメッセージが。スマホのフリック入力を誤ったうえ、慌てて削除しようとして送信キーを押してしまい、3分間呆然としていたらしい。

そんなT君なのだが、実は僕は内心けっこう期待している。へこたれないし、憎めないし、ちょっと変態っぽいトンガったセンスも、いい個性だ。ただ、確信に満ちた肯定の言葉をかけるにはまだまだ材料が足りない。いつか決定的な褒め方をする日を楽しみにしながら、今日もT君をしかるのだった。 

構成:宮崎智之

「週刊東洋経済」2014/11/1号

 

 ☆★☆お知らせ☆★☆

この記事の筆者・長谷川裕氏がプロデューサーを務める「文化系トークラジオLife」が、10月26日(日)26:00~(10月27日2:00~)に放送されました。テーマは「フィジカルの逆襲」。過去の放送は、ポッドキャストでも聴けます。

長谷川 裕 TBSラジオ プロデューサー

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はせがわ ひろし / Hiroshi Hasegawa

1974年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、1997年にTBS入社。2001年からTBSラジオの番組制作を担当し、「荻上チキ・Session-22」、「菊地成孔の粋な夜電波」、「森本毅郎・スタンバイ!」、「アクセス」などの番組を手がける。2006年に立ち上げた「文化系トークラジオLife」は、優れた放送番組に贈られるギャラクシー賞大賞を受賞(2008年)、同番組では「黒幕」としても活躍している。共著書に『文化系トークラジオ Lifeのやり方』、『文化系トークラジオLife』などがある。@Life954

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