デフレ脱却という呪文は、もはや通じない

黒田日銀の追加緩和の限界が見えた

これは明らかな誤りだ。米国FRBにおいても、インフレ率が2%に達していないのに、出口へ向かうのはおかしいという議論があるが、これは2つのインフレを区別していない誤りである。

需給バランスのインフレからすると、需要超過になってきている。しかし、構造的なデフレーションがあるから、差し引きすると1%台だということに過ぎない。インフレ率は1つの指標に過ぎず、その他の様々な指標を併せて考えることにより、経済が過熱しているかどうか、さらなる金融緩和が必要かどうか、効果的かどうか判断するのは当然だ。FRBは、今回のQE3終了にあたって、インフレ率にかかわらず、失業率の低下などからいって、追加的な資産購入は必要ない、と判断したのだ。

黒田日銀の最大の問題点とは?

一方、日銀は、少なくとも公式の説明ぶりからは、経済は弱くない、依然潜在成長率を上回るGDPの拡大を続けている、雇用も順調、ということになる。それならば、サプライズを起こすほどの追加緩和がなぜ必要だったか、ということになると、足元のインフレ率が低下しているから、ということだ。もちろん、黒田総裁は、2つのインフレについて区別がつかなかったわけではない。

「区別がついたにもかかわらず、区別は必要ない」と信じているのだ。

このインフレ率の低下は、原油をはじめとする資源価格の値下がりによるものだ。これまで、円安、資源高騰で、コストプッシュインフレが起きてきて、内需、中小企業にはコスト高で苦しい局面だった、しかし、それは経済全体のためには必要であって、経済全体が良くなれば、やがてはそちらにも波及する、経済全体が駄目になってしまっては元も子もない、という議論なのだ。

この議論は、まだ間違いとは言えない。中小企業よりも経済全体が重要だ、という価値観は、意見の相違はあるが、あり得る考え方だ。大中小は関係ない、経済全体が重要、というのは、いかにも日銀らしい考え方であり、マクロ経済を司るものとしては、必ずしも非難されるものでもない。

最大の問題は、経済全体のためにも、コストプッシュインフレは明らかに悪いものであると考えていないことにある。あるいは、コスト増が起きても、円安とインフレは、それを上回るベネフィットを経済全体にもたらすと考えていることが問題なのだ。

期待は必ず実現するのか

黒田日銀の考え方は、第3のインフレ、すなわち期待インフレがもたらす現実のインフレが重要だ、というものだ。期待は実現する。これが、現代経済のエッセンスである。あるいは、ケインズが示した最大のポイントだ。岩井克人氏は、そう述べている。

私は、これも違うと思う。期待は影響するが、実現するかどうかは状況次第、ということだ。まず、現代マクロ経済における合理的期待形成、ルーカスなどの主張する合理的期待形成とは、期待は正しい、という仮定に過ぎない。

それではあまりにナイーブだから、ということで、その後、経済理論においてはいろんな議論がなされているが、期待は必ず実現する、というメカニズムを確立した理論はない。ナッシュ均衡とは、均衡に過ぎず、ナッシュ均衡に到達するプロセスとは別なのだ。もちろん、ゲーム理論は、ナッシュ均衡に到達するプロセスの膨大な研究により成り立っている。あるいは、多くのナッシュ均衡からどこが選ばれるか、どれが実現するか、均衡選択の問題は様々な理論の発展がある。

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