第2のインフレは供給サイドのインフレで、生産構造の変化によるインフレだ。第1のインフレが、基本的にデマンドプル(=需要が強いこと)によるものとすれば(しかし、供給制約が急激に生じた場合に起こるインフレもあり得る。日本の大震災やタイの大洪水の場合がそうだ)、こちらは、コストプッシュによるインフレとなる。デマンドプルは、需要の強いこと、景気が良いことによるもので、コストプッシュは、企業の生産コスト増、消費者の消費コスト増となることから、前者がよいインフレ、後者は悪いインフレ、と言われることもある。
今回の追加緩和の一番の問題点とは何か
しかし、これは必ずしも正しくはない。恩師岩井克人先生とは意見が異なるが(メディアなどのインタビュー参照)、いかなるインフレもインフレ自体は望ましくない、というのが私の考え方だ。ここでの、生産構造の変化によるインフレについても、需給バランスのインフレと同じく、ネガティブなインフレ、つまりデフレも含んだ概念である。つまり、需給バランスによるインフレ、供給構造によるインフレである。
別の角度から言えば、需給バランスによるインフレとは、価格調整メカニズムが働くことによる価格変動であり、生産構造によるインフレとは、数量調整メカニズムが働くことによるインフレである。
実際には、この2つがクロスする、あるいは同時に起こることがある。すなわち、世界的な生産競争が起こる中で、中国、ヴェトナム、カンボジアが生産基地としての競争をすることにより、世界的な大量生産が可能になり、またそれを最大限活用しようとするサプライヤーが出てくれば、そして、そのサプライヤー同士が生産性の競争を行えば価格は低下することになる。
このとき、グローバルにサプライチェーンを構築することができるという生産技術の進歩がコストダウンを可能にするのであるが、同時に起きていることは、需要サイドも世界的な需要を取り込むことができるという需要構造の変化も含まれており、そして、最後に結果的に価格が下がるのは、需給バランスで、供給サイドがいくらでも供給できるからであり、その結果、供給過剰となり、需給バランスが崩れ、価格が低下していくことになる。
短期的には、生産を過剰にしてしまって製品が余るので、価格が下がるということであり、これは需給バランスによる価格下落と言えるが、先に価格競争を見込んで、サプライチェーンをグローバルに構築するということは、中期的な生産戦略であり、供給サイドの要因になるが、需給バランスか生産構造かという区別は無意味で、両者あいまったものである。アダム・スミスの言った「市場が分業を制約する」という考え方そのものと捉えることもできる。これは価格調整とも数量調整とも言えず、一体となっていることを表す。
これらの議論が、インフレについて重要なのは、金融政策あるいは経済政策全体としても、デフレと闘う意味はどこにあるか、ということである。需給バランスによるインフレこそが、需要の強さを計るものであるが、実際の指標とする消費者物価は、供給サイドの構造変化の影響を受けており、さらに実際のCPIには技術進歩による性能上昇が織り込まれているから、需給バランスによる需要の強さを計るものではなくなっている。
2つのインフレを区別することは重要であり、2つのインフレといっても、切り口は何通りもあり、インフレーション(あるいはデフレーション)という現象は、現象面だけを捉えてはいけない。
今回の日銀の追加緩和の一番の問題点はここにある。少なくとも黒田総裁の説明では、デフレの原因、構造は何であれ、それは悪であり、なんとしてもデフレはつぶさなくてはいけない、という考え方に基づいて、追加緩和を行ったことだ。
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