デフレ脱却という呪文は、もはや通じない

黒田日銀の追加緩和の限界が見えた

もう一つは、より単純に古くから議論される、実質金利が低下するということだ。後者は、金融政策に関する問題で、名目金利がゼロに陥ったときに、もはや手段がないから、将来の期待インフレ率を上げることによって、実質金利をさらに下げることが可能になるから、金利低下による景気刺激という金融政策における通常のメカニズムが機能するということだ。

これは、金融政策の基本から派生するものであり、2001年の日銀の元祖(あるいは本質的な意味での真の)量的緩和において期待されたメカニズムだ。そして、そのときにより重要視されたのは、足元でインフレを起こすことではなく、時間軸効果であった。

つまり、通常ならば金融緩和を縮小する局面でも、縮小せずに、将来の過剰な金融緩和を約束する(コミットする)ことにより、そのときのインフレ率が高まることを期待して(日銀が、インフレが起きてもインフレファイターにならないことを信じて)、期待インフレ率が高まり、同時に、それにより、景気が過熱することを予想して、投資をしておく、ということが起こる、ということを、政策当局は期待したのだ。

しかし、今回の議論は、後者のメカニズムではなく、デフレ脱却、デフレマインド脱却に焦点が当てられている。一方、米国FRBの量的緩和は、前者のメカニズムは念頭になく、後者のメカニズムと、資産市場に直接働きかけることによる資産効果により(いわば小さな資産バブルを起こすことにより)消費を刺激する、ということが政策ターゲットだった。

日本においても、この資産効果は、第1次量的質的緩和、異次元緩和第1弾では、狙われたし、実現した。しかし、今回は、投機家たちは、この資産効果が起こるかどうかを問わず、資産価格が上昇することだけに関心があり、興奮しているのであるが、政策当局としては、この資産効果を狙ったものではないように答弁をしている。あくまで、デフレ脱却、デフレスパイラル防止なのだ。

デフレスパイラルと、デフレマインド

デフレスパイラルとは、デフレになると、オカネの価値が相対的に高まる、将来のリターンがプラスであるから、オカネをリスク資産や消費、投資に回さなくなるので、経済が萎縮均衡に陥る、という主張である。

これは、ケインズが一般理論で議論したときには当てはまっただろう。物価上昇率はマイナス20%以上、失業率も全米で25%という前代未聞の大不況、大恐慌だったから、恐怖感を持って、人々は萎縮しただろう。しかし、現在のデフレは実は物価はプラス1%で、プラスであるし、失業率は低下してきたし、潜在成長率を足元のGDP増加率が上回っており、そのような状況にはない。また、スパイラルに陥りやすい資産市場でさえ、株価は日経平均で言えば1万5000円~1万7000円前後であり、著しい上昇はしていないが、下落はしておらず、8000円にスパイラル的に下落するとは誰も思っていない。

ではデフレマインドとは何か。デフレスパイラルが起きないとすると、安定的なデフレが続くということか。それにより、期待インフレ率がゼロあるいはプラス1%程度で安定し続けるということか。そうなると辛気くさくて思い切った投資が起きにくいということか。

これは実体経済には無関係である。まず、消費者は価格下落が続くから消費を控えているのではない。消費税引き上げの駆け込み需要や円安による輸入品の価格改定に対する駆け込み需要は確かにあるが、それは反動減をともなうので、消費にはおおむね中立的である(厳密な議論はまた別の機会に。結局は過熱が起きる分だけマイナスである)。長期に渡る物価安定は、消費には変化をもたらさない。

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