デフレ脱却という呪文は、もはや通じない

黒田日銀の追加緩和の限界が見えた

古くは、タトマンと呼ばれる模索過程の研究が行われた。これに関する研究を含め、一般均衡の存在証明、到達証明、不完全競争の下での動き、これらをはじめ多くの研究は恩師根岸隆先生(11月3日に文化勲章を受章)によって行われており、均衡のダイナミズムの研究は古くからある。

ここでは、これまでおよび未来の経済理論の論争よりも、現在の金融政策として、足元のインフレ率を上げれば、人々の期待インフレ率が上昇する(あるいは高い水準で維持される)ということを信じて、このために多くのことを犠牲にして、期待インフレ率の維持を最優先することが望ましいかどうか、というところがポイントだ。

黒田日銀の金融政策の3つの論点

だから、黒田日銀の金融政策を擁護するにも批判するにも、普通の2つのインフレの区別は関係ない。期待インフレが現実のインフレをもたらすか、逆に足元の現実のインフレが(コストプッシュであれ)期待インフレ率の上昇をもたらすか、さらに、期待インフレ率の上昇(あるいは2%の維持)が経済全体にとって最重要かどうか、この3つの点を議論する必要がある。

第1に、期待インフレが現実のインフレをもたらすかどうか、という論点は、インフレ自体は経済にマイナスであることから、意味がない。重要なのは、そのプロセスが起こるとして、そのメカニズムはどんなものか、ということだ。

つまり、期待インフレ率が高いことにより、消費や投資が増加し、その結果、需要が増えてインフレになる、というメカニズムが存在するのであれば、期待インフレ率を高めるために、現実のインフレを起こすという政策が意味を持つ。

同時に、第2の論点も同様で、現実のインフレ率が期待インフレ率を高めるか否かではなく、高めるとして、高まった場合に、現在の経済にプラスなことがあるのか、現実が期待を動かすとして、インフレ期待が高まること自体にプラスのベネフィットがないのであれば(インフレ中毒者が存在しないのであれば)、期待インフレが、現実の実体経済に何かプラスをもたらすのか、というところがポイントとなる。

すなわち、すべては、第3の論点にかかっているのだ(ただし、この3つの論点も興味深いので、将来、議論することにしたい)。

期待インフレ率が高いことが重要だ、という議論では、経済へのプラス効果として、デフレスパイラルに陥らない、ということが一般には指摘される。クルーグマンが(まだ彼への尊敬が一部の人に残っていた)1997年に日本経済のデフレの問題点を議論したときのポイントがこれだ。

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