日本人が知らない「熊本の水がすごい」本当の理由 大手半導体メーカーも目をつけた水守る仕組み

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ところが、近年田んぼは減り続けている。熊本地域の水稲作づけ面積は30年前の3分の2程度。田んぼは畑に、あるいは宅地や工場になった。背景にはコメの供給過剰による、全国的な減反政策がある。田んぼから地面に染み込む量は土壌の性質によって異なるが、田んぼの面積の減少は、地下水の供給源の減少につながったわけだ。

こうした中、1990年代後半には、東海大学の市川勉教授(当時)が、「熊本市の江津湖の湧水が10年で20%減った」という研究結果を発表。その時期に、ソニーの半導体工場(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング・熊本テクノロジーセンター)が地下水涵養地域に進出する。

前述のように、半導体生産は地下水を大量に使用する。そこでソニーは2003年度から地元農家や環境NPO、農業団体と協力し、地下水涵養事業を開始。協力農家を探し、稲作を行っていない時期に川から田んぼに水を引いてもらい、その費用をソニーが負担した。

事業者に涵養も義務づけた

それ以降、熊本では、白川中流域の水田を活用した地下水涵養事業が本格的に行われるようになった。ソニーのほか、富士フイルム、サントリー、コカ・コーラなど地域の水を使う企業が農家と協力し、田んぼの水張りを支援している。

熊本の地下水保全条例は許可制が注目されがちだが、許可を受けた事業者には涵養計画の提出と実施が義務づけられている。地下水取水ルールと、涵養ルールが組み合わされているのだ。

熊本はまた、公益財団法人「くまもと地下水財団」も設立。涵養事業を単独では行えない零細企業は同財団に協力金を支払うと、財団が涵養を行う仕組みもできている。

水質保全や水量保全など、涵養事業のメニューもそろっている。例えば、地下水調査研究事業では、地下水の流れを調べ、各事業を効率的に展開するのに役立てるほか、熊本地域の地下水に関するデータも集積している。こうした市町村の枠を越えての熊本県の地下水保全の取り組みは世界で高く評価されており、「2013国連“生命の水”最優秀賞」を受賞している。

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