「人生の目標は何だっていいんだ」と気づいた日 資本主義の論理から飛び出す「50代冒険家」

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無論、先方はそんなこととはつゆ知らず、っていうか日本からやってきたアフロの珍客のことなど早晩忘れてしまうに違いないけれど、そんなことはどうでもいいのです。

少なくとも私自身が、これからお金を使えなくなり人からちやほやされることがゼロになろうとも、自分が日々生きていること、自分が行動することそのものに「意味がある」のだと思えることそのものが、人生の目標を失いかけた私にはこの上ない宝のように思えたのだ。

人生勝ち抜かなくたっていい!

そして何よりも、私がこのアイデアが気に入ったのは、それがあまりにも「小さな」そしてある意味「バカバカしい」ことだったということである。

通常、第2の人生どう生きるかって話になると、スキルを活かして再就職とか、起業とか、そういうのが勝ち組って話になりがちだ。そのために早いうちから資格を取ったりスキルアップに努めたり人脈を作ったりなどという「大きなこと」が推奨される。

もちろん人生の目標は人それぞれなのでそうしたい人はすればいいと思うが、個人的には、そんなふうに死ぬまで人生を勝ち抜いていくことなど考えただけでゲンナリだ。

っていうか勝ち抜けないし! だってこれからどんどんトシ取っていくんだし! っていうかそもそもそういうことをもう卒業したくて会社辞めたんだし! ……さりとてそのようにして金を稼がねば、人生100年時代を元気に駆け抜けることなどできようかというのもまた現実。私とてゲンナリしつつもそのような不安を抱かない訳じゃなかったんです。

でも、別にそんな大変な目標を掲げずとも人生を前向きに生きる方法はいくらでもあることに私は気づいてしまったのだ。「プラゴミ出さない」という個人的な小さな目標だって、やろうと思えば大変である。生涯努力しても死ぬまでに目標を達成できない可能性が高い。それほど困難である。

でも取り組むのは自由だ。何の資格もスキルも、そしてお金も不要である。つまりは私、まったくお金をかけずに、生涯かけてチャレンジするに値する目標を得たんじゃないですかね? しかも、やるかやらないかは自分次第。上司がバカだとか社会が悪いとか政治がなっとらんとか、そういう自分の力じゃどうしようもないことに一喜一憂するストレスもないんである。

いやいや、今から思い出しても、この瞬間の、パッと目の前が明るくなるような感じと言ったらなかったよ! もう何というか、地獄に仏というか掃き溜めに鶴というか、棚から牡丹餅というか……だって何しろこの時の私は、高級リゾートでマッサージ三昧というどこからどう見ても優雅な外見とは裏腹に、目の前はまったくの五里霧中だったのである。

確かに今このひと時は優雅だが、お金で夢を実現できるのもきっとこれが最後で、日本に帰ればこれから死ぬまでお金をチマチマ節約しながら何とか生き永らえるのみ。そんな人生のどこに楽しみが? 何をよすがに、何を自分のプライドとして生きていけばいいのか? つまりは私には何もない。空っぽ……と思っていたのだ。

いやいやいや、違うじゃん! お金がなくてもやれること、面白そうなこと、意味のあること、ちゃんとあるじゃん!

私、ちっとも空っぽなんかじゃない!

稲垣 えみ子 フリーランサー

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いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

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