「40代でがん」会社で公表しながら働く彼女の理由 頭をよぎった「退職」をこうして乗り越えた

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40代でがんになった大登さんが「退職」を選ばず乗り越えた経緯とはーー?(写真:筆者撮影)
働き盛りでがんになる――。あなたは想像したことがあるだろうか。
2016年にがんと診断された約100万人中、20歳から64歳の就労世代は約26万人(国立がん研究センターの統計による)。全体の約3割と少なくない数だ。
だが、治療しながら働く人の声を聞く機会は少ない。仕事や生活上でどんな悩みがあり、どう対処しているのか。自分や家族、友人ががんになった際に、一連の情報は役に立つはずだ。がん経験者が運営する、一般社団法人がんと働く応援団の協力を得て取材した。
がんの治療と仕事を両立する、サッポロビール広報部の大登貴子さん(51)。告知から手術、職場復帰までに会社の支援制度がどう役に立ち、復職後は社内のがんコミュニティがどんな支えになったのかを紹介する。
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「仕事や子育ては1日も待ってくれない」

「私の経験上、がんです」

2018年2月下旬。受診した乳腺外科の医師から、当時47歳の大登さんは初診であっさりと告げられた。同年2月の成人検診で、胸の痛みを数回感じたと乳房のエコー検査時に伝えた。1週間後には乳腺外科の受診を勧める手紙が自宅に届いた。

だが、自覚症状はほとんどなし。大登さんの母親(享年69)ががんで他界後、夫婦でがん検診もまめに受けてきたのに……と、やり場のない憤りもこみ上げてきた。

「手術をしてみないとがんのステージも、転移の有無なども正確にはわからないと言われ、不安が一気に高まりました」(大登さん)

日常的に感じる痛みなどはないのに、検査数値だけががんであることを示しているという落差と葛藤。地方出張時に一人になると、彼女は気持ちがどうしようもなくざわついた。

当時は仕事以外に、高校2年と中学1年の息子たちの世話にも追われていた。毎朝5時起きで3合のお米を炊き、野球部の長男には重さ約2キロの弁当とそれに見合うおかずをせっせと作っていた。毎日出る大量の洗濯物も1日たりとも待ってはくれない。

帰宅して家事を片付けると、平日は午後10時半頃には寝ないと体がもたなかった。それらを考えると、「退職」の文字が彼女の頭をよぎった。

「次の検査で乳がんが確定した時点で、直属の上司には連絡しました。部署のメンバーの異動が決まっていて、私の責任が増すタイミングでもあり、『それでなくても忙しいのに、どうしよう……』と、不安でいっぱいでした」(大登さん)

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