「仕事や子育ては1日も待ってくれない」
「私の経験上、がんです」
2018年2月下旬。受診した乳腺外科の医師から、当時47歳の大登さんは初診であっさりと告げられた。同年2月の成人検診で、胸の痛みを数回感じたと乳房のエコー検査時に伝えた。1週間後には乳腺外科の受診を勧める手紙が自宅に届いた。
だが、自覚症状はほとんどなし。大登さんの母親(享年69)ががんで他界後、夫婦でがん検診もまめに受けてきたのに……と、やり場のない憤りもこみ上げてきた。
「手術をしてみないとがんのステージも、転移の有無なども正確にはわからないと言われ、不安が一気に高まりました」(大登さん)
日常的に感じる痛みなどはないのに、検査数値だけががんであることを示しているという落差と葛藤。地方出張時に一人になると、彼女は気持ちがどうしようもなくざわついた。
当時は仕事以外に、高校2年と中学1年の息子たちの世話にも追われていた。毎朝5時起きで3合のお米を炊き、野球部の長男には重さ約2キロの弁当とそれに見合うおかずをせっせと作っていた。毎日出る大量の洗濯物も1日たりとも待ってはくれない。
帰宅して家事を片付けると、平日は午後10時半頃には寝ないと体がもたなかった。それらを考えると、「退職」の文字が彼女の頭をよぎった。
「次の検査で乳がんが確定した時点で、直属の上司には連絡しました。部署のメンバーの異動が決まっていて、私の責任が増すタイミングでもあり、『それでなくても忙しいのに、どうしよう……』と、不安でいっぱいでした」(大登さん)
無料会員登録はこちら
ログインはこちら