「『私は温泉がいいんだけど……』って言うと、次男は『じゃあ行かない』ってつれない返事だったので、私が折れてニューヨークに行きました。思春期の息子との2人旅なんて滅多にできませんからね。旅行中は彼なりに私の体調を気遣ってくれる姿を見て、成長を実感できてうれしかったです」
今度はデレデレしたお母さん顔になって、大登さんは振り返った。
「がんを普通に公表できる社会」への第一歩
大登さんは「Can Stars」の活動を続ける一方、がんになってもコミュニティに参加しない同僚たちの存在も気になり出した。仮に同じ部位で同じステージのがんであっても、症状や体調、治療内容はさまざまだということは知っている。だからコミュニティへの参加を強要するつもりはない、と彼女は続けた。
「でも、以前の私がそうだったように、自分を“悲劇の主人公”にして、自らどんどん追いつめてしまいやすい面もあります。あるいは、病名を明かしたら窓際業務に回されちゃうんじゃないか、という不安とかですね。がんにまつわる負のイメージを、私ができる範囲で払拭したいと考えるようになりました」
匿名で活動に参加していた大登さんは、実名公開に踏み切った。自身が社内コミュニティに参加して気持ちがどう楽になったのかを伝えたり、広報部員として頑張って働いていたりする姿を、そんな同僚にも見てもらおうと決めた。
Can Starsの活動に匿名で参加後、後ろめたい気持ちが拭いきれずにいたことも、実名公開の動機のひとつ。社内で顔見知りから「元気?」と聞かれるたびに、大登さんは「うん、元気」と答え続け、病名を明かしていないことへのモヤモヤがふくらんだためだ。
「私にとって病名を明かすことは、『同僚であるあなたを大事な仲間の一人だと思っています』という、気持ちの裏返しでもあります。がん経験者のそんな思いも社内にきちんと伝わればいいなぁと思います。病名をちゃんと言えずに、私もその間つらかったわけですし……。将来はがんを普通に公表できる社会になってほしいですね」
病気になっても「まわりに迷惑をかける」と卑屈にならず、病名を伝えたうえで、希望すれば誰もが治療と仕事が両立できる。そんな社会を1日でも早く実現できるように、まずは自分ができることから大登さんが刻んだ第一歩だ。
(監修 押川勝太郎・腫瘍内科医師)
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