「40代でがん」会社で公表しながら働く彼女の理由 頭をよぎった「退職」をこうして乗り越えた

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2018年8月、ニューヨーク旅行での大登さんと次男(写真:大登さん提供)

「『私は温泉がいいんだけど……』って言うと、次男は『じゃあ行かない』ってつれない返事だったので、私が折れてニューヨークに行きました。思春期の息子との2人旅なんて滅多にできませんからね。旅行中は彼なりに私の体調を気遣ってくれる姿を見て、成長を実感できてうれしかったです」

今度はデレデレしたお母さん顔になって、大登さんは振り返った。

「がんを普通に公表できる社会」への第一歩

大登さんは「Can Stars」の活動を続ける一方、がんになってもコミュニティに参加しない同僚たちの存在も気になり出した。仮に同じ部位で同じステージのがんであっても、症状や体調、治療内容はさまざまだということは知っている。だからコミュニティへの参加を強要するつもりはない、と彼女は続けた。

「でも、以前の私がそうだったように、自分を“悲劇の主人公”にして、自らどんどん追いつめてしまいやすい面もあります。あるいは、病名を明かしたら窓際業務に回されちゃうんじゃないか、という不安とかですね。がんにまつわる負のイメージを、私ができる範囲で払拭したいと考えるようになりました」

匿名で活動に参加していた大登さんは、実名公開に踏み切った。自身が社内コミュニティに参加して気持ちがどう楽になったのかを伝えたり、広報部員として頑張って働いていたりする姿を、そんな同僚にも見てもらおうと決めた。

2019年8月、サッポロビール「Can Stars」とアフラック社のがん 社内コミュニティとの合同研修にて。大登さんは前列中央(写真:サッポロビール提供)

Can Starsの活動に匿名で参加後、後ろめたい気持ちが拭いきれずにいたことも、実名公開の動機のひとつ。社内で顔見知りから「元気?」と聞かれるたびに、大登さんは「うん、元気」と答え続け、病名を明かしていないことへのモヤモヤがふくらんだためだ。

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「私にとって病名を明かすことは、『同僚であるあなたを大事な仲間の一人だと思っています』という、気持ちの裏返しでもあります。がん経験者のそんな思いも社内にきちんと伝わればいいなぁと思います。病名をちゃんと言えずに、私もその間つらかったわけですし……。将来はがんを普通に公表できる社会になってほしいですね」

病気になっても「まわりに迷惑をかける」と卑屈にならず、病名を伝えたうえで、希望すれば誰もが治療と仕事が両立できる。そんな社会を1日でも早く実現できるように、まずは自分ができることから大登さんが刻んだ第一歩だ。

(監修 押川勝太郎・腫瘍内科医師)

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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