いわゆる「コロナうつ」、つまりコロナ禍でのメンタルヘルス悪化は、日本でも懸念されてきた。OECDの報告によれば、国内のうつ病の有病率は2020年時点で17.3%と、2013年の7.9%から倍増している。
このうつ病の増加に関連して、医師としても看過できない統計データがある。警察庁が発表している国内「自殺者数」の推移とその理由だ(2020年「令和2年中における自殺の状況」)。
過去数十年にわたって自殺理由のトップは「健康問題」で、全体の約半数近くを占めてきた。その内訳として「うつ病」は例年4割近くにも及ぶ(厚生労働省「自殺対策白書」)。
それでも「健康問題」による自殺は、この10年以上、実数も割合も減少傾向を保っていた。それが2020年は、突如急増したのだ。同じく減少を続けていた自殺者数全体も、増加に転じた。
この唐突な自殺増加を招いた「健康問題」とは、状況的に「コロナうつ」と考えるのが自然だ。
「経済・生活問題」の自殺は減少?
他方、「経済・生活問題」理由の自殺は2020年も減少したという。だが、これを額面通り受け取ってよいかは大いに疑問だ。
現実に目を向ければ、日本人は新型コロナ流行によって確実に厳しい経済状況に陥っている。「経済的なダメージに直面した若者は、特にうつ病リスクが高い」というアメリカの調査もある。
また、フランスや英国からは、「パンデミック中も雇用が確保された人は、失業者よりもうつ病や不安神経症のリスクが低かった」(前出OECD報告)とのエビデンスが示されているが、日本の雇用状況は厳しい。
2018年以降ずっと2.5%以下で推移してきた完全失業率は、2020年に入って上昇し、以来一度もコロナ禍以前の水準に戻っていない(労働政策研究・研修機構)。
たとえコロナ禍の「経済・生活問題」から「コロナうつ」を発症し、自殺に至った場合でも、「うつ」が介在すれば統計上は「健康問題」による自殺として扱われる。
「経済・生活問題」がメンタルヘルスに与える影響は、表面上見えづらくなっているのかもしれない。
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