『恋するリベラーチェ』は、1950年代から1980年代にかけて人気を博した、アメリカ人ピアニストのリベラーチェの、最後の10年間を描いた伝記ドラマだ。かのエルヴィス・プレスリーも「音楽的才能を深く尊敬している」と語ったとされるリベラーチェは、稀代のエンターテイナーだった。30年以上にわたり、ラスベガスほか世界中で派手な豪華ショーを成功させ、レコードは6つのゴールドディスクを達成し、ギャラは天井知らずだったという。
その卓越したピアノテクニックはもちろんのこと、劇中では派手な衣装や奇抜なステージ演出が目を引く。孔雀の羽をふんだんに使い、床に引きずるほどのミンクのコート、極端に襟の立った上着、これでもかとフリルのついたシャツなど、まるで宝塚のようなノリ。チャーミングな笑顔と話芸も巧みで、トレードマークである燭台のついた特注のグランドピアノで演奏する姿は、まさに“ミスターエンターテイナー”である。
表向きは、すべてを手に入れた成功者。だが、私生活では同性愛者であることをひた隠しにし、1987年にエイズでこの世を去るまで、秘密を守り通した。ドラマは主に、リベラーチェ(マイケル・ダグラス)と、住み込みの個人秘書であった元恋人スコット・ソーソン(マット・デイモン)の関係にフォーカスしている。
ほとんど一目惚れで恋に落ち、しばらくは甘い生活を送るが、やがて倦怠期がきて……という展開は、ラブストーリーでは珍しいことではないだろう。
同性愛者への差別と偏見に一石
だが、当時の風潮からいっても、同性愛者であることを世間に知られることを死罪にも等しいと思っていたリベラーチェ。そんな彼に裏切られたと感じたソーソンのすれ違いと葛藤、そして泥沼の愛憎劇からは、ゴシッピイな興味ではなく、ありのままの自分でいることが困難だった時代に生きた人々の、心の叫びが切実に伝わってきて胸に刺さる。
特に、エイズが猛威をふるい始めた1980年代は、エイズは同性愛者だけがかかる病といった偏見が強かった。往年の銀幕のスターでタフガイのイメージが強かったロック・ハドソンは、1985年にエイズ発症後、同性愛者であることを公にし、同年亡くなったことで世界中に衝撃が走った。その事実を新聞で知ったリベラーチェは、自身は最後まで秘密を隠し通す道を選んだ。
ソダーバーグは、偽りの自分を演じ続けたリベラーチェという人物の素顔に迫りながら、現代にも根強く残る差別と偏見に一石を投じるメッセージを力強く伝えている。ショーアップされたきらびやかな一面を描いたエンターテインメント性と社会派メッセージの融合は、ソダーバーグの最も得意とするところだろう。
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