ネタバレになってしまうので詳細は書かないが、ラストである曲が流れる。このシーンの解釈は、見る人によって、また批評家の中でも「感傷的だ」として意見が分かれるところかもしれない。が、筆者は反射的に涙がこぼれてしまった。泣いて泣いて、エンドクレジットが流れても涙が止まらなかった。ソダーバーグがこのラストを用意したことは、ある意味で意外な気もしたが、筆者はこの作品にとってふさわしいものだったと思う。ぜひ、作品を見て確かめてみてほしい。
80年代「エイズの猛威」による深い傷が今も……
ちなみに、エイズが猛威をふるい始めた1980年代を描いた作品には、高い志と問題意識を持つ人々が集結するため、秀作が多い。特に、プレミアム・ケーブル局HBOは今年のエミー賞で作品賞を受賞した、ライアン・マーフィー(『glee』『アメリカン・ホラー・ストーリー』)によるTVムービー『ノーマル・ハート』(CSスター・チャンネルで11月29日放送)や、TV史に残る傑作の誉れ高いミニ・シリーズ『エンジェルス・イン・アメリカ』(DVD発売中)など、いずれも舞台戯曲の映像化であるが、商業的には難しいと思われる題材に積極的に取り組んできた。
同性愛者が多い業界でもあるハリウッドや演劇関係者たちは、多くの仲間たちをエイズによって為す術もなく失った。ある時代の才能あるジェネレーションが、ごっそりと抜け落ちてしまった事実は、いまだに多くの業界関係者の心に深い傷を刻んだままだ。エイズに対する間違った認識に基づく恐怖だけでなく、社会からの差別と偏見の嵐にさらされながら死んでいった仲間たち。そうした過去を忘れることのないようにとの思いは強く、こうした作品には多くの有名スター、優秀な人材がこぞって参加している。
『恋するリベラーチェ』もそうだ。そもそも、映画界に多大な貢献をしてきたソダーバーグ肝入りの作品として、当初映画として企画されていた本作だが、ハリウッドのスタジオは情け容赦なく本作への資金援助を見送った。理由は、「あまりにも同性愛的(too much gay)」だから。そこで名乗りをあげたのが、プレミアム・ケーブルのHBOである。
HBOは、同局での初放映を条件にゴーサインを出した。資金を得たソダーバーグは、約30日間で本作を撮り終え、2013年についに本作を世に送り出すことができたのである。
結果、昨年度の主要な賞レースを総ナメにした。主演ふたりは共に高く評価されたが、とりわけリベラーチェになりきり、渾身のパフォーマンスを見せたマイケル・ダグラスは、ガンを克服し、晩年にこのような当たり役を得たことに感慨深さもひとしおだったことだろう。エミー賞の授賞式で、ソダーバーグ、デイモン、関係者へ送った賛辞とジョークはウィットに富み、それでいて心からの思いが詰まったスピーチで、万来の拍手と涙を誘った。
ちなみに、ダグラスとデイモンは企画の実現がほとんど不可能に思われた時期でも、一度も作品から降りると言わなかった。やる意義のある作品だという強い信念が揺らぐことはなく、それが最終的には実を結んだ形となった。
本作はアメリカではTVムービーだが、カンヌ国際映画祭のオープニングで上映され、イギリスや日本では劇場で公開された。撮影も手がけたソダーバーグは、カメラには映画と同じRED EPICを使用しており、スクリーンでも遜色のないクオリティを確保している。こうなってくると、TVと映画の違いとは何か、どちらが格が上か下かといった議論は、もはや不毛に思えてくるのだが、どうだろうか。
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