おしゃれ好き父を介護・看取った彼女の「心残り」 インクルーシブファッション挑戦までの道のり
「おしゃれが好きな父だったんです。でも入院中や、最後に病院で亡くなるときは、ずっと同じパジャマで過ごしていて。父が亡くなったあと、私の中で『お父さんがもっとファッションを楽しむ方法を考えればよかった』っていう思いが残りました」
自分にできることがもっとあったのでは――。父親の他界からしばらく経っても、坂野さんの心残りは消えなかった。そんなとき、勤務先のアダストリアが「Play fashion!」というコーポレートミッションを掲げる。会社全体でそのミッションに取り組む中、彼女は父親の入院生活を思い返すようになった。
「1人ひとりがファッションを楽しむというのが『Play fashion!』のテーマなのですが、父の入院生活に『Play fashion!』はあったんだろうか? と思うようになったのです」
すべての人がファッションを楽しめているか?
また、データ分析業務の一環で商品レビューを分析していると、あることに気づく。それは、障がいや介護に関するレビューの”極端な少なさ”だ。
「私が分析した段階では、アダストリアの直営ウェブストア『.st(ドットエスティ)』に寄せられている450万件のレビューのうち、障がいや介護、車いすに関するレビューは55件だけ。全体の0.001%しかなかったんです。もしかしたら、障がいのある人や介護を必要としている人の声は、集まりにくいのではないかと思って」(坂野さん)
こうした現状がある中で、本当にすべての人がファッションを楽しめているのだろうか? 坂野さんの中で問いが生まれ、自らインクルーシブファッションサービスを立ち上げようと決意する。しかし、マーケティング部でデータ分析を担当し、服作り未経験の彼女が、いったいどうやって?
そこには、アダストリアの社内事業提案プロジェクト「Project A」の存在がある。年に1回、全社員が参加できる新規事業提案プロジェクトで、「自分のアイデアや企画を応募できる」(坂野さん)。提案が通ると事業化が決定し、提案者自身が事業責任者になれる。
2020年8月、坂野さんは「Project A」を活用して、インクルーシブファッションサービスについて応募。約200人の障がいのある人々が働いているアダストリアの特例子会社「アダストリア・ゼネラルサポート」の各拠点を訪問した。障がいのあるスタッフたちに、インクルーシブファッションへの想いを伝えた。そして、ファッションでの”困りごと”をヒアリングして回った。
「皆さんの困りごとや悩みをヒアリングしていく中で、アダストリアならその悩みを解決できそうだと思いました」(坂野さん)
周囲に相談しながら、ヒアリングした内容を具体的な事業案としてまとめ、事業化するかどうかを決定する決勝プレゼンの日を迎える。
「本当の意味で1人ひとりがファッションを楽しめる社会をつくるためには、会社として取り組まなければ社会そのものは変わらない。そしてアダストリアなら、社会を変える力があると思っています!」
彼女の熱い想いを伝えた。その熱意が会社に伝わり、2020年10月、事業化に向けてプロジェクト化が決定。誰もがファッションやサービスを楽しめる社会をつくりたい――。その想いから、プロジェクトのコンセプトは「Play fashion! for ALL」に決まった。
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