おしゃれ好き父を介護・看取った彼女の「心残り」 インクルーシブファッション挑戦までの道のり

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
コロナ禍の商品制作で活躍した豊島の3DCGデザイン技術「バーチャルクロージング(VIRTUAL CLOTHING)」(写真:アダストリア)

プロジェクトは、2020年12月に本格始動。事前にヒアリングしたアダストリア・ゼネラルサポートのスタッフの中から、坂野さんの想いに賛同したファッション好きな3人をメンバーに迎え入れた。

膠原病(こうげんびょう)を患い、入退院を繰り返している小林美佳さん。スポーツでの事故をきっかけに、車いす生活を送る鈴木大輔さん。身長約110cmの低身長で、服選びに悩みを抱えていた伊勢坊和幸さんだ。
それぞれ遠隔地に勤務していてコロナ禍での移動が難しかったため、打ち合わせはすべてオンラインで実施。坂野さんが3人に対して、ファッションの悩みを改めてヒアリングした。

「3人から『いつも何に困っていて、何が不便だと感じるか』を具体的に教えてもらったんです。それぞれの障がいによって我慢しているものが違うので、”1人ずつの課題に寄り添った服作り”に取り組みました」(坂野さん)

アダストリアのすべての部署を使い尽くした

3人の声をもとに、商品制作がスタートした。が、何度も言うように坂野さんは服作りの経験がない。生地やデザインの知識がない中で、どのように進めていったのだろうか。

「アダストリアのすべての部署を使い尽くしましたね(笑)。生地を開発している部署に知見を聞いたり、品質管理の部署に縫製について詳しく聞いたり。約100人の社員が協力してくれて、応援してくれました」(坂野さん)

また、繊維専門商社・豊島の3DCGデザイン技術「バーチャルクロージング(VIRTUAL CLOTHING)」を活用したことも大きい。

小林さん・鈴木さん・伊勢坊さんとの打ち合わせで出たアイデアをもとにデザインやパターンを制作。それぞれの体型データから3DCGアバターをつくり、実際の着用イメージをチェックしながら、リモートでパターン修正やサンプル修正を行った。

3人とも手指が動かしにくく、従来の服ではボタンがつまみにくかったという。そういった共通の”悩み”にも寄り添って商品制作が行われた(写真:アダストリア)

そして完成したのが、「わたしに寄り添う入院パジャマセット」「車いすユーザーのこだわりカジュアル」「低身長さんのカジュアルセットアップ」の計6型だ。

入院パジャマセットは、入院中もおしゃれで楽に過ごしたいという小林さんの意見から生まれた。点滴を打ちやすいようトップスの袖部分にループをつけたり、スナップボタンでスムーズに着脱できるように工夫を凝らした。また、体温調節できるよう羽織も付いている。

車いすユーザーのこだわりカジュアルは、白を基調とした袖パッチ付きのコットンパーカやコーデュロイシャツなどをラインナップ。車いす生活を送る鈴木さんの、服のシワや汚れへの悩みをもとに開発した。車いすを漕ぐ際に袖の内側が汚れないよう、手首から肘のあたりにかけて切り替えのデザインを採用。袖丈を短めにするなどの工夫も見られる。

次ページ機能とデザイン性を追求
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事