大学中退し「食用バラ」で起業した女性の波乱万丈 新商品でピンチを乗り切り、年商1億円を超えた

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バラを収穫できるめどが立ったら、早急に売り先を確保する必要がある。売れないバラは、廃棄される運命。なんとしてもそれを避けるために、怒涛の営業を始めた。食べログ、ぐるなびなど飲食店が網羅されているサイトを開き、上から順に電話をかけた。その数、1日に100軒以上。田中はもともと人見知りで、営業は苦手だと思っていたが、それも自らラベリングしたものだったのかもしれない。次第に陽気なキャラを演じる「第2の人格」が形成され、飲食店に飛び込み営業もできるようになった。

「食用バラ農家なんですけど、食べるバラって知ってますか?」から始まる営業トークに興味を持ってくれる飲食店は少なくなかったが、なかなか契約には至らなかった。食用バラの使い方がわからないという意見には、納得もできた。しかし、田中と商談をする際、見た目や年齢が理由で取引を断られたことも多く、そのたびに唇をかみしめた。

バラ風呂に入りながら苦悩した日々

田中の苦悩とは関係なく、バラは成長する。売り先がなくても捨てることができず、スタッフにバラを配り、田中は自宅の風呂にバラを浮かべて入浴した。バラの豊かな色彩と香りに癒やされながら、「このままじゃダメだ」と次の一手に思いをめぐらせる日々が続いた。

1年目の売り上げは、150万円。この危機的状況から脱するために、2年目、田中は加工品の製造に乗り出した。大阪での研修時から、廃棄されるバラの数が想像以上に多く、もったいない、どうにかできないかなと思っていたのだ。

とはいえ、加工品を作るノウハウはない。そこで、身近な人を頼ることにした。スタッフの同級生が深谷市で和菓子店をやっていると聞き、バラを持って「ジャムを作ってください」と頭を下げたのだ。その和菓子店「ねだち」は古くから深谷市で営業している老舗ながら、幸運にもオーナーは好奇心旺盛で、チャレンジをいとわないタイプだった。オーナーと話し合いを重ねながら半年後に完成したのは、口に入れた瞬間、優雅なバラの香りが広がるようにこだわった2種類のジャム。

食べられるバラのジャム「コンフィチュール ローズ」1944円(写真:ローズラボ)

田中は自信作のジャムを持って、マルシェで販売を始めた。マルシェは興味を持ってくれた人へのプレゼン。田中の言葉や振る舞いからは、バラに対する愛情や自信があふれ出していたのだろう。多いときには1日に10万円を売り上げた。

さらに、このジャムに目をつけて「うちで買い取って店頭で置きます」と提案してくる小売店まで現れた。悪戦苦闘した食用バラの営業がウソのように、ジャムは飛ぶように売れていった。終わってみれば、2年目の売り上げは3000万円に達していた。その5割を、ジャムが占めた。

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