イェール大卒の医師が明かす「脳疲労」の正体 日本人を苦しめる「べき思考」という現代病

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まだすべてが解明されたわけではありませんが、脳の疲労物質は少しずつわかってきています。代表的なものは、アデノシン三リン酸(ATP)が分解されて発生するアデノシンという物質で、脳の前帯状皮質にくっつくことで、脳疲労を生じると考えられています。

脳疲労の諸悪の根源は「心ここにあらず」

多くの方は、脳疲労が起きると、コーヒーや栄養ドリンクなど、カフェインをとることに走ってしまいます。しかし、カフェインは、疲労を感知する脳の部分をブロックしてしまうものです。一過性のしのぎにはなりますが、効果が切れれば、また舞い戻ってしまいます。

久賀谷 亮(くがや・あきら)/医師・医学博士。イェール大学医学部精神神経科卒業。アメリカ・神経精神医学会認定医。アメリカ・精神医学会会員。日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだのち、イェール大学にて先端脳科学研究に携わる。その後、同大学で臨床医としてアメリカ屈指の精神医療の現場に8年間にわたり従事。その他、ロングビーチ・メンタルクリニック常勤医、ハーバーUCLA非常勤医などを経て、2010年にロサンゼルスにて「TransHopeMedical」を開業。著書に『世界のエリートがやっている 最高の休息法』『ロスの精神科医が教える 科学的に正しい 疲労回復 最強の教科書』『脳が老いない世界一シンプルな方法』がある(写真:本人提供)

本当に脳疲労を減らすには、まずは予防的に、脳のマルチタスクをしないこと、つまり、脳の複数の場所を使うような作業をなるべくしないということが大切です。オリンピック選手も、脳の使い方に長けてくると、パフォーマンス時に使う脳の部分が小さくなり、効率よく働くようになるのです。

よく言われることですが、25分間作業をしたら1回休憩をとるといったことが大切ですね。目と脳はつながっていますから、目の疲労をやわらげることも重要です。たとえば、オフィスなど室内環境の色も、脳に作用しています。観葉植物などグリーンのものがあると、疲労を軽減すると考えられます。

そして、もう1つは、マインドフルネスです。われわれは、放っておくとつねになにかを考えている生き物です。それが自然な状態なのですが、考えが脱線し、暴走していくことが多々あるわけです。その脳の活動をぴたっと止めることが、マインドフルネスです。

脳疲労の諸悪の根源は、心がさまよう状態、つまり雑念です。雑念は、決して悪いことではありませんし、それが人間の創造性のもとにもなっていますが、ここで言う雑念は、「心ここにあらず」という状態のことです。次々と物事を考えてしまい、それが脳の回路を酷使してしまうために、ネガティブなことが起きるのです。

マインドフルネスはとても単純です。手元にある物をじっと眺めることもマインドフルネスですし、「今日の天気はどうかな」と雲の色を眺めることもマインドフルネスです。ティーブレイクもよいですし、ハードルを低く、気楽に取り入れてよいものです。

ただ、カジュアルにやっていると、それだけでは流されてしまいがちです。ですから、最低限の習慣を作ったほうがよいでしょう。朝の10分間だけでもマインドフルネスをやるという程度でも、継続すればパワフルなものになります。

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