アベノミクス効果で日本企業の業績は回復基調にあります。もちろんすべての業種ではなく、金融、製造業、観光業など業種は限られています。ただ、全般的に好業績の会社が増えつつあるのは明らかで、その結果として起きている、ある職場の変化について、今回はひとつ紹介したいと思います。その変化とは、社員に対して「中長期的な視点」を持って仕事に取り組むことを求めるメッセージが経営から出始めたこと。具体的には
・若手の人材育成
・新たな事業の創造
・社内の構造改革
などを意味しているようです。たとえば、取材したある専門商社では、この7月、
《次の10年に向けて将来の収益の柱を育成するため、社員一人ひとりが中長期的な視点を持って仕事に取り組んでほしい》
という内容が、社長からメールで全社員に届いたそうです(ちなみに、昨年までとは大きな方向転換とのこと)。中長期的な視点を持て――と言うのは簡単ですが、5年後10年後の将来を見据えた戦略的な発想は、そうそう簡単にはできないこと。別の言い方をすれば、「あるべき姿」を定めてから、現在の仕事の優先順位を見直さなければなりません。こうしたメッセージを社員は、どのように受け止めているのでしょうか?
中長期の視点が凍結されてきた、この10年
私が取材するかぎりでは、「青天の霹靂」と感じる人も多い様子。その理由としては、景気後退が長く続いた影響が考えられます。その間、別の視点、つまり「目の前の仕事だけやっていればいい……」という、短期的な視点で仕事に取り組むことに慣れてしまったのです。
中長期的な視点を持つことを凍結させないと、サバイバルできない必死な時代が長く続きました。振り返ってみれば、この10年間で景気の後退要因となるトピックスが頻発しました。リーマンショック、サブプライム問題、東日本震災など挙げればきりがありません。そんな時代に会社が社員に求めたことは、《収益を上げる》ため、目の前の仕事だけに集中すること。経営陣も前向きな取り組みをしたくないわけではありません。ただ、将来を見据えて投資できる資金も人材もなかったのが実情です。
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