「優秀さ」とは、新しい価値を生み出すこと 三宅秀道氏に聞く「本業成熟時代」の新基準

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
三宅秀道(みやけひでみち)●専修大学経営学部准教授1973年生まれ。早稲田大学商学部卒業。都市文化研究所、東京都品川区産業振興課などを経て、早大大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。東京大学 大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員、東海大学政治経済学部専任講師を経て現職。専門は製品開発論、中小・ベンチャー企業論。著書に 『新しい市場のつくりかた』(東洋経済新報社刊)。
 

多くの企業が本業の成熟化に直面している現在の日本。新規事業の創出が急務となる中、求められる人材像に変化が出始めている。経営学者として新たな価値創造の大切さを説く、専修大学経営学部の三宅秀道准教授に聞いた。

――多くの企業が本業の成熟化に直面して新規事業の立ち上げを模索していますが、上手くいっていない企業が多いように感じます。

先日、ある大手企業の重役が私の研究室を訪ねてきた。その方は、新しい事業を創るプロデューサー的な人材がカリスマ的な魅力を持つ創業社長だけで、ほかにそのタイプの人材がいないことに危機感を抱いていた。今のところ既存事業が盤石な状況で、新規事業を早急に立ち上げなくてはいけない状況ではないが、事業が成熟化を迎える前に次の成長を担う新規事業を育成する必要がある。にもかかわらず、言われたことをちゃんとやるタイプの人材ばかりで、自分で方向性を打ち出し、ゼロから何かを創る人材が不足しているという。

大企業で優れた技術がある企業ほど、その技術を使うことにこだわって過剰適応してしまい新しいことをやりたがらない。どんなものでも切れてしまう名刀があるばかりにそれ以外の選択肢を考えなくなってしまう、「名刀・村正シンドローム」に陥っている。

その企業では新しい製品アイデアを発表する社内コンテストがあるにはあるが、審査員から「いい製品だけど、技術的にはたいしたことがない」という批判がよく出るという。しかし、技術的に難しいことを実現したというのは技術者の自己満足にすぎない。大切なのは技術的に難しいかどうかではなく、その製品やサービスが市場で価値を生むかどうかだ。プロデューサー的な人材とは、その「新しい価値」を生み出す能力を持った人材だ。

――プロデューサー的な人材は企業内からどうやったら生まれるのでしょうか?

最近考えているのは、プロデューサーとしてビッグピクチャーを描くことは、能力ではなく性格に起因するのかもしれないということ。あえて挑発的な言い方をすれば、大企業でプロデューサー人材が少ないのは、就職したら家族や親戚が喜ぶような大企業を就職先として選ぶ時点で、リスクのある新しいことをやりたがらない性格だからかもしれない。

社内ベンチャーでスピンアウトした企業と、その母体となった歴史ある大企業の両方の方とお話をして、大きな違いを感じたことがある。母体の大企業で、「新しい価値を自ら働きかけて創ることが大切」という内容の講演をしたところ、質疑応答で若手社員の方から「実行する前に成功するかどうかわかる方法はありますか?」という質問がきてひっくり返った。外部に正解や基準を求めるメンタリティが行き渡ってしまっていたのだ。

しかし、社内ベンチャーでスピンアウトした企業はそうではなかった。スピンアウトした企業では新規事業の担当者に、「我が社は本業がそれなりにうまくいっているから、おまえたちが大コケしても大丈夫だ。思い切ってリスクをとれ」と話をしているという。

負けん気、やる気が社会的に貴重な資源になっているとも言える。安定ばかり望む人材が会社で多数を占めていたら、お互いにそれでよしとされてしまう。

――状況を打開するにはどうすればいいのでしょうか?

矛盾する面もあるが、企業から新規事業を産み出すにはある種の「隔離」が必要だ。人間とはある得意技を得たら何か他の可能性を失ってしまうもの。既存事業の中で与えられた問題の解決、効率化ばかり追い求めていたら、発想する力を失ってしまう。身についた行動パターンの切り替えには、大きなエネルギーが必要だ。そうであれば、新規事業の担当者は早い段階で既存事業から隔離して遊軍とし、社会のいろいろなところから新しい価値を見付けてくるように仕向けるのだ。人間は環境に左右される動物であり、場の設計変更をすることが発想の切り替えにつながる。

次ページ新しい価値を生む力こそが今の時代の優秀さ
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事