イノベーションは、事前に要件定義できない

まず「シンプルな一歩」、そして「たゆまぬ改善」

トヨタはイノベーションの教科書のような企業だ(撮影:今井康一)

イノベーションの歴史を考える上で、日本を代表する企業の1社であるトヨタ自動車は、大いに参考になります。同社は、もはや世界的な巨大企業ですが、今でも様々な新しい技術を開発し、社会に大きな変化を与えており、ハイブリッド車などは、まさに、全世界の自動車産業に影響を与えるだけでなく、環境問題やエネルギー問題にも大きく貢献しています。

2014年3月に放送されたトヨタの創業者を描いたTBSの2夜連続ドラマ「LEADERS リーダーズ」は、国産自動車を生みだすまでの物語が描かれていました。何度も失敗を繰り返し、資金不足で苦しむ中で、最後には開発・量産化に成功した、というのがあらすじです。

最初のメッセージが明確

トヨタは1935年5月にA1型試作乗用車を完成させた(『トヨタ自動車75年史』より)

あのドラマの中でもう一つ興味深いことに気づきました。トヨタは最初に目標を「小型大衆車」に据えていたことです。明確に、「小型」であって、かつ「大衆でも買える自動車」と宣言しました。

イノベーションを目指し、新しいことにチャレンジする場合、最初の発想は「小型大衆車の国産化」というようにシンプルな形にすることです。目指す方向が正しかったため、その後の「大衆化」で自動車産業の規模は一気に拡大し、関連する産業として精密機械、精密部品、ロボティックス、ローン、保険、道路建設、石油産業などが発展し、ビル建設や住宅産業にも影響を与えました。すそ野を含め自動車産業は、日本のGDP(国内総生産)のうち10%以上、50兆円以上になります。つまり巨大なバリューチェーン(価値連鎖)を築いたわけです。あの挑戦と成功が無かったら、今日の日本の基幹産業が何だったのかと思います。

次ページ最初の製品は必要最小限の機能
キャリア・教育の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 日本野球の今そこにある危機
  • 新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場
  • 買わない生活
  • 映画界のキーパーソンに直撃
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
大乱世の思想ガイド<br>マルクスvs.ケインズ

戦後社会の信念とイデオロギーが崩れ落ちる今、危機を乗り越えるための思想が必要です。脱経済成長を旗印に支持を広げる新マルクス主義とコロナ禍で完全復活したケインズ主義を軸に、大思想家が残した知恵を学び直します。

東洋経済education×ICT