「良いアイデアを得る秘訣は、たくさんのアイデアを得ることだ」。こう述べたのはノーベル賞を2度受賞した科学者、ライナス・ポーリングである。イノベーターの共通点を一つ挙げるとしたら、アイデアを集めるのが好き、ということだ。エジソンは、一生の間に、3500冊を超えるノートにアイデアを書いていたという。
イノベーションは企業の規模を問わず必要なものだが、特にベンチャー企業の場合には不可欠だ。なぜならば、イノベーションを実現しない限り、事業を成長させ拡大できないまま、瞬く間に消えてしまうからだ。
発見力と実行力は違う
イノベーションに関連して、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授の著書「イノベーションのDNA」の中に、次のような記述がある。
まず自分自身に問いかけて欲しい。自分は画期的なアイデアを生み出すのが得意だろうか? 社員の創造性とイノベーション能力を高める方法を知っているだろうか?
社員に「枠にとらわれない考え方をしろ」と言う幹部がいる。だが、枠にとらわれない考え方をする、その方法こそが知りたいことなのだ。それが分からないと質問すると、その答えに、幹部は「創造的になれ」と言う漠然とした役に立たない答えを返してきた。
大企業がイノベーションに失敗しがちな理由は、発見力ではなく実行力で選ばれた人達が、会社の経営層を占めることにある。大企業の幹部のほとんどは、どうすれば人と違う考え方をできるのか、ということをあまり意識したことがないだろう。社内でも学べないし、ビジネススクールで教わることもない。そもそもビジネススクールは、発見ではなく、実行に長けた人材を育てるところだからだ。
・・・ハーバードビジネススクール教授のこの言葉は、かなり説得力があるといえるだろう。
その他にも、わかりやすい解説をしている学者がいる。キャズムで有名な作家のジェフリー・ムーアは、様々な処理や意思決定をする人をマネジメントと言い、イノベーションを実行し、実現する人をリーダーと呼ぶ。マネジメントとリーダーとは、同じでは無い。必要とする能力も異なる、と言っている。
マネジメントは実行力、イノベーターは発見力が重要であるということだ。このことが意味しているのは、企業の経営幹部の経験者でなくても、ビジネススクール出身者でなくても、イノベーションに必要なスキルを身に着けたら、イノベーターになれる可能性がある、ということだ。新しい事業を立ち上げ、イノベーターと呼ばれる可能性は、誰にでもあるのである。
クリステンセン教授は、500人以上に及ぶ成功した起業家達と5000人を超える企業幹部をインタビューし、さらに周辺調査をした結果、IQ (知能指数) やEQ(感情的知能) に加えて、DQ(発見力指数) という新しい能力分析をして説明している。
そこでは、IQは、先天的な要素が80%位影響するのに対して、DQは、むしろかなり後天的なもので、経験やトレーニングや習慣によって、高められるという結論を出している。
しかも、DQが非常に高い人は、IQは平均より少し上の方のレベルであると言う結論もある。非常に面白いところである。創造性は遺伝ではなく、積極的な努力を通して習得できることを力説している。
ちなみに、EQとは、1996年頃に研究されたもので、一例として紹介されていたのは、ハーバード大学医学部で、オールAを取っているような学生が、ある教科でBを付けられたことで、教授にクレームし、挙げ句にナイフで刺してしまった。この学生は、頭が良いと言えるのか?馬鹿なのか? という議論になり、従来のIQの高さだけでは、人間の優秀さを評価することは出来ないということになった。自分の感情を抑えることと、相手や周囲の感情を理解することは、ビジネスで成功する上で非常に重要なことは言うまでもないことだ。
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