たとえば、ある人材ビジネスの会社。もともと新規事業を公募する仕組みがあり「攻める」社風が有名でしたが、景気後退が続くと
「もはや新しいことに取り組む余裕はいっさいない。目の前の仕事で業績を上げることに集中するように」
と経営陣がメッセージを発信。攻めの会社が、守りを優先したわけです。残念ながら新規事業の公募を凍結する時期が長く続き、攻めることを是としてきた職場は、経営陣のメッセージに当惑しました。その後、守りの姿勢が長く続くうちに、職場の雰囲気自体が守り優先に変貌。ついにはもともと「守り」を標榜していた管理担当の役員が、社長に就任。社風は10年間で180度変貌しました。それを象徴するように「新しいビジネスを考えてみたい」と発言する“奇特な”社員がいれば、
「そんな途方もないことを考える前に、やるべきことがあるのではないか?」
と先輩社員が止めに入るように。もはや守りの思考でなければ、生きていけない職場になってしまったのです。経営陣のメッセージは、それだけ社員の仕事ぶりを変えてしまうほどのインパクトがあります。
また、ある精密機器メーカーの場合。この会社では、業績が右肩上がりであった1990年代に立ち上げた新規事業の大半から、2000年前半に撤退。ただ、求人広告用に作成したキャッチコピーである
《新しいことをドンドン生み出す面白カンパニー》
を、そのまま使っていました。そんな企業イメージを信じて入社した新入社員たちの間では、不満が鬱積。人事部に「話と違う」との抗議が続き、ついには相当数の若手が退職してしまう事件に発展しました。このように、「目の前の仕事しかしてはいけない」という雰囲気に縛られている職場は、たくさんあるのではないでしょうか?
「目先の仕事」ばかり求められてきた若手の戸惑い
ここで、目先ではなく中長期的な視点を持って仕事をする、ということのはどういうことか、改めて学んでおきましょう。本来は会社の業績に関係なく、中長期的な視点というものは常に必要です。ゆえに、大抵の経営陣は景気が悪い時期でも中長期的な視点で仕事に取り組んでいます。ただ、その結果として行われたのはリストラや昇給停止など、社員には困ること(=ネガティブオプション)ばかり。そこで、
《中長期的な視点での仕事は経営陣が行い、目先の利益を社員に求めよう》
と、中長期的な視点で仕事することを、現場の社員から取り上げてしまっていたのです。ただ、業績が回復して前向きな観点で取り組めるテーマ(=ポジティブオプション)が増えてきたので、ここにきて社員にも求める状況になったのです。この前提については理解しておいたほうがいいでしょう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら