収入の不安定さも、将来を考える一因になった。当時の給料は月25万円で、ボーナスも福利厚生もなく、自由に使えるお金は多くなかった。そこで副収入を得つつ、新しいことを始めるきっかけをつくろうと、現役の僧侶たちが働く新宿・四谷の坊主バーで働くようになった。
お店には、さまざまな宗派やキャラクターのお坊さんが在籍していた。よくも悪くも聖職者らしくない坊主さんは、取っつきやすさもあってか、自然と三枚目担当に。
「仏教のまじめな話や、悩み相談をしにくるお客さんは、私に話しかけてきませんでした(笑)。お店では盛り上げ役だったので、この人に聞いてもまともな答えは返ってこないだろう、って思われていたのでしょうね。でも逆に、私のようなお坊さんを見て、仏教を身近に感じてくれた人もいたのかなと」
あるツイートが2万超もリツイートされる
ほどなく、坊主さんのSNS活用の才能が開花する。坊主バーで運用していたツイッターで、坊主さんがつぶやいたあるツイートが、2万超もリツイートされたのだ。
「坊主バーの上の階に、牧師が店主を務める牧師バーが開店したんです。その宣伝のために、『木魚が紛失しました!』『坊主バーにありました』『これをリツイートしたらお経一巻唱えたことになります! その名もワンクリック祈祷!』と投稿したら、ものすごい数のリツイートをされ、メディアにも取り上げられました」
坊主バーの上に牧師バーが開店するという、ただでさえユニークな話題をより盛り上げるため、工夫に工夫を重ねた内容だった。お坊さんが砕けた投稿をすることで生じるギャップも、狙いどおりだった。以前から抱いていた、「新しいことをしなくては」という思いも発露されたわけだが、なぜこのタイミングだったのか。実は前日に、坊主さんは情熱を駆り立てられる、ある経験をしていたという。
「尼さんと一緒に、浅草にストリップを観に行ったんです。踊り子さんたちが、全身の筋肉を使って踊ったり、逆立ちしたりと、めちゃくちゃ頑張っているのを見て、自分も何かしないといけないと。それで考えたのが、このツイートだったんです」
それから坊主さんの、程よくおふざけ要素のあるツイートは、反響を呼ぶようになった。バズった投稿のひとつに、「神のみぞシール」がある。これはお寺や神社で、絵馬に書かれた願掛けの内容や個人名が、SNSでさらされることを問題視し、シールで隠してはどうか?と坊主さんが提言したもの。そのシールを「神のみぞシール」と名付けたのだ。座布団1枚!と言いたくなるようなうまいダジャレである。
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