「母親の久しぶりの笑顔や、両親に愛されてきた記憶を妹と共有しながら、気持ちの整理を少しずつ進めてきました。姉妹で看取ることで、先の罪悪感もふくめた母親へのマイナスの感情も、全部帳消しにできると思えたんです」
姉の説明に、智美さんも隣のZoom画面で黙ってうなずく。
「明るくて温かい時間」に迎えた母親の最期
母の病室では、母親のベッドのそばに姉と妹と清水さんが座り、姉の夫や妹の娘らはそれを遠巻きに見つめていた。
やがて母の下あごが落ちて無呼吸状態に。それでも晶子さんが「孫娘の○○が来るまで頑張って!」と声をかけると、母は長い間合いを経て息を吹き返した。母親の粘りに「やるじゃん!」と妹が声を上げ、姉は拍手した。また、あるときは姉が「偉い、偉い」と、息を吹き返した母親の額をなでたりもした。
あれほど恐れていた最期が確実に近づいているはずなのに、病室の空気はむしろ明るく、温かくなっていく。
実は妹の智美さんは、母親をきちんと看取るために、看取り士の養成講座を受講して自らも看取り士になっていた。
しかし、母親が亡くなる直前、彼女は看取られる人の後頭部を太股の上にのせて行う看取りの作法を、姉の晶子さんに譲った。母親は晶子さんに抱きしめられながら息を引き取ったという。
その後、智美さんや晶子さんの夫、姉妹双方の娘が順に、ベッドに上がって母親の頭を左太ももにのせて抱きしめた。
晶子さんにとって鮮烈だったのは、自分の右太ももの上で息を引き取った母親の背中の熱さだ。亡くなる前に入室した施設の看護師が検温すると38度4分もあって、とても驚いていたという。心臓が止まった後はさらに高熱になっていた気がすると、今度は智美さんが話してくれた。
「腕や手は冷たくなっていたんですが、背中は高熱を出した子どもと同じくらいの熱さでした。この母の強いエネルギーを、私たちが受け取ってこれから生きていくんだって、とても腑(ふ)に落ちました」
家族が交互に抱きしめて看取る理由がそこにある。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら