がんで逝ったある新聞記者の「納得いく最期」 幸せに旅立つために必要な4つのこと

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「幸せだ」と言いながら旅立った、元新聞記者・吉岡逸夫さんの最期とは?(写真:遺族提供)
人はいつか老いて病んで死ぬ。その当たり前のことを私たちは家庭の日常から追い出し、病院に押し込め、死を「冷たくて怖いもの」にしてしまった。家族の死をどう受け止めていいかわからず、喪失感に長く苦しむ人が多いのは、そのことと無関係ではないだろう。
一方で、悲しいけれど「温かい死」を迎える家族もいる。それを支えるのが「看取り士」という人たちだ。
この連載では、それぞれの家族が選んだ「温かい死」の経緯を、看取り士の考え方と作法を軸にたどる。今回は、旅立つ5日前に「幸せだ」と連呼した男性の、準備をきちんと整えた人生の締めくくり方を紹介する。

明るい夫婦の、へこたれないがん闘病

2017年4月、東京新聞編集委員の吉岡逸夫(当時65歳)は、人間ドックで糖尿病と診断された。だが、それはただの始まりにすぎなかった。

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「その後、新聞社内の診療所の看護師さんから、『糖尿病なのに、体重がどんどん減っていくのはおかしい』と指摘されて、千葉の自宅近くにある総合病院で、精密検査を受けてみたんです」

妻の詠美子(49歳)が振り返る。

約3cm大のすい臓がんと診断されたのが翌5月。標準治療は手術・抗がん剤・放射線の3つだが、手術と放射線はもはや手遅れという診断だった。

「抗がん剤は体力をいたずらに奪われるだけだからと、夫婦で拒否しました。すると、適切な治療方法を自力で探すしかありませんでした」

次に取り組んだのが高濃度ビタミンC点滴。がん細胞がエサである糖質と勘違いして、エサにならないビタミンCを食べることで、結果的にがん細胞を兵糧攻めにする治療法だ。

「保険適用外なので、点滴1回で2、3万円。毎日打つと月に約100万円が消えました。でも、航空会社のクレジットカード払いにすると、マイルがどんどん貯まるんです。だから、『よし、マイルを貯めて沖縄旅行だ!』って2人で盛り上がって、意外と明るい闘病生活でしたよ」

詠美子は快活な口調で話す。彼女自身、約3年前に子宮がんが深刻化する寸前で見つかって摘出に成功。だが、一時はエンディングノートを記入するほど追いつめられていた。意外と明るい闘病生活は彼女の楽観主義と、一連の経験にも支えられていた。

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