母を抱きしめ看取った姉妹に訪れた予想外の結末 介護生活で険悪になった姉妹に残されたのは…

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一般社団法人日本看取り士会に所属する看取り士は、看取りを終えた後で、依頼者と再会することは今までなかった。

しかし、コロナ禍が長引き、面会もできずに親が病院などで他界し、家族が指一本触れることなく火葬されることも増えた。肉親の死にちゃんと立ち会えずに後悔をつのらせる人や、喪失感から立ち直れない人たちも増えている。

そこで故人に改めて心を寄せる時間を持つために、看取り士が依頼者と面談をすることが増えている。四十九日の法要までに看取りの過程を振り返るのだ。

「先の母の腕組みについての笑い話も、その面談時に生まれたもので、私は母からのギフト(贈り物)だと思うんです。だって、亡くなってからも私たちを笑わせてくれる母って、やっぱり偉大ですもん!」(智美さん)

今でこそ、母親の看取りをそうにこやかに振り返る姉妹。しかし、認知症の母親が最初の余命告知を受けた2019年末頃、2人の関係は険悪だった。

看取り士の姿勢に驚き、喜び、泣いた理由

「初めまして、看取り士の清水直美です。おつらいところはないですか?」

看取り士の清水直美さん(写真:筆者撮影)

元看護師で看取り士の清水さんは、ベッドでエビのように体を丸める母親(89)に顔を20㎝ほどに近づけ、背中をさすりながらそう声をかけた。2019年の大晦日の午後、都内の病院の一室。

当日が看取り士との初対面で、その後に姉妹は看取り士の派遣契約をかわす予定だった。

「お母様は少し震えていて、何かにおびえていらっしゃるようでもありました。ですが、私の問いかけにはうんうんとうなずいたり、時おり私に視線をちらちらと送ったりしてくださいました」(清水さん)

認知症を長く患う母親に、清水さんが普通に接してくれたことに、姉妹は驚きながらも、うれしかったと話す。智美さんが後悔も込めて振り返る。

「施設の人も私たちも長い間、母とはそんなふうには接してこなかったからです。意思の疎通がとれないと思い込んでいましたから。ですから清水さんの普通の接し方が、ある意味カルチャーショックで、心がふわっとゆるんだんです」

病気とはいえ、智美さんは母親を人間として長い間見ていなかったことが申し訳なくて、涙があふれて止まらなかった。どんな状態であれ、人として普通に向き合う看取り士の姿勢が、姉妹の先入観に風穴を開けたことになる。

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