人はいつか老いて病んで死ぬ。その当たり前のことを私たちは家庭の日常から切り離し、親の老いによる病気や死を、病院に長い間任せきりにしてきた。結果、いつの間にか死は「冷たくて怖いもの」になり、親が死ぬと受け止め方がわからず、喪失感に長く苦しむ人もいる。
看取り士とは、余命告知を受けた本人の家族から依頼を受け、本人や家族の不安や恐怖をやわらげ、思い出を共有し、最後は抱きしめて看取ることをうながす仕事。
村田晶子さん(仮名・59)と楠木智美さん(仮名・52)の姉妹は、看取り士の助言と支援を受けながら、認知症の母親(89)を看取った。2人が体験した看取りとはどんなものだったのか。
告別式後に受け取る「母親からのギフト」
2021年2月末、母親の告別式から約1カ月後のことだ。看取り士の清水直美さんをまじえて、晶子さん、智美さん姉妹の会話がはずんだ。話題は母親が息を引き取った後の出来事。Zoom取材に応じてくれた、妹の智美さんが話す。
「清水さんが布団をめくったら、お母さんがなぜか腕を組んでいて、清水さんも『キャッ!』って驚いたんです。腕を組むのはお母さんのくせでしたから」
姉の晶子さんはその経緯を説明する。
「実は、息を引き取る少し前に施設の看護師さんが来て、母の左手の指で血中酸素濃度を測ったんです。そのとき組んでいた腕を一度外したんです。だから、いつの間にまた組んだんだろうねって、3人で笑ったんですよ」
智美さんは、告別式などの慌しさの中で、肉親の最期にじっくりと寄り添った看取りの感動が薄れていったと話す。
「看取りに立ち会った家族同士でも、そのときの記憶は互いにバラバラで、曖昧だったりします。ですから、面談では看取り士さんをまじえて、ちぐはぐな記憶の答え合わせができる感じがいいんですよね」
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