「小学生になったら専業主婦」アジア圏の衝撃実態 取材も経てわかった共働きの「不都合な真実」

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「後悔しているのは……いや、後悔はしていないんだけど」と何度もLilyさんは「regret」という単語を口にしては撤回した。「長女は今中学校で楽しく過ごしているから、後悔ではないけど、もう少し私が背中を押してあげれば、もっとできたかもしれない(もっといい学校にいけたかもしれない)という思いはある」。

当時、長女が勉強面で何につまずいているのか、今何を経験しているのか、その瞬間その瞬間で相談に乗ってあげることができなかった。「それについて罪悪感はある」。

新型コロナウイルスでパンデミックになった2020年は、家族全員が家にいることになった。家族の時間を確保できたかと思いきや「建設関係なのでコロナ禍で緊急の対応が必要になって、同僚はみんな狂ったように働いていた。私もオフィスにいるときよりも家族の顔を見なくなって、仕事が終わるのは22時とか23時とか」。

Lilyさんはこのときまでにすでに数年来、仕事を続けるべきか悩んできたという。次女は小学1年のときに発達障害の診断を受けていて、読み書きに人よりも時間がかかった。発達障害用のサポートは受けてはいるが、PSLEで長女と同じようにいくとは思わない。

「成熟している」長女にさえ、もう少し時間をかけてあげられればよかったという思いがあったうえに、コロナ禍での激務。次女のために仕事を辞めたとは言いたくないが、決断をした。少なくとも次女のPSLEが終わるまでは仕事はしないつもりだ。

「教育が理由」は本当か

シンガポールの母親については、子どもが幼い時に離職し、結果的に塾や習い事に送迎に追われる毎日となり、再就職が考えられないという事例についても、連載のこれまでの回で紹介してきた。子どもの教育のために離職する、再就職がしにくい。これが典型的なシンガポールの、子どもの教育を理由にした離職理由の説明だ。

Lilyさんについても、職場環境や次女の発達面の要因もあるものの、この典型例にあてはまるように見える。

しかし、他方で、専業主婦へのインタビューを重ねていくうちに、私は、そこまで教育に熱を入れているようには見えない専業主婦も半分以上いることに気づいた。というか、むしろ教育費を確保するために働き続けているケースのほうが時に教育熱心に見える。

また、冒頭紹介した「専業主婦になれるものならなりたい」という人たちの中にも、専業主婦になったら何をしたいのかと耳を傾けていると、実は「しっかり寄り添って勉強を見てあげたい」というケースはほとんどいない。彼女たちが口にするのは、むしろ「子どもと時間を過ごしたい」というものだ。

この「子どもと向き合いたい」「子どもとの時間が欲しい」という語りは、ワーキングマザーが増えた社会において珍しいものではない。

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