このようなアジアの文脈で、シンガポールもまた、教育を理由に仕事を辞める女性がいる国として語られてきた。日本では、「M字」を描くことが長らく知られてきた女性の年齢別就労率を国際比較すると、年齢にかかわらず働き続けられる北欧や中国などは「台形」になる。一方、シンガポールや台湾は、キリン型、逆V字などと言われ、30代後半から下がり始めるのだ。
子どもの試験に合わせて働き方を変える
教育競争が激しいことや、このグラフをもって、シンガポールは典型的に「子どもの学齢期に年齢別就労率が下がる国」として位置づけられてきた。子どもがPSLE(小学校修了試験)を受ける直前は親が休職することも珍しくない。
シンガポールで高学歴女性向けの再就職支援をしているMums@WorkのSher-li Torreyさんは次のように話す。
「子どもが小学校に入った頃に、フレキシブルな働き方を模索しはじめる女性が多い。その次は、11歳くらいになるとPSLE(小学校修了試験)のことを考えて、働き方を考え直す。その後また中学修了時、別の試験……と、女性が働き方を見直したり離職したりするタイミングは子どもの試験にかなり連動している。最近はどんどんその年齢が早くなっている感触がある」
女性の離職について、Sher-liさんは、「再就職をしたいなら、あまりブランクを空けないようにとアドバイスしている。40代やそれよりシニアになって子どもの試験が終わったからと再就職をしようとしても、その年齢だともともとやっていたジュニア(責任範囲の狭い若手向けの仕事)には戻れないので、かなり厳しくなる。だから3~4年くらいで戻れるようにしたほうがいい」という。
しかし、1人っ子であれば数年の離職でも可能かもしれないが、子どもが2人以上いて、PSLEと中学修了時試験を見ようとしたらあっという間に3~4年は超えてしまいそうだ。
実際に、子どものPSLE前に仕事を辞めたという人にも話を聞いた。中華系シンガポール人のLilyさん(仮名)は、次女が小学5年生になった今年、それまで20年近く働いていた建設関係の仕事を辞めた。シニアマネジャーで、「大好きな仕事だった」という。
新型コロナウイルスの感染が広がる前、長女が小学生のとき。娘たちは学校が終わった後に学童に行き、学童が終わる17時半ごろにスクールバスで父方の祖母(Lilyさんの義母)の家に直行し、夕飯を食べさせてもらう。
Lilyさんが義母の家に合流し、娘たちを連れて帰ると早くて20時半。子どもとゆっくり時間を過ごす余裕はなかった。週末も、スマホに連絡が入れば対応せざるをえない。家族と過ごすべき時間に「ちょっとこれやっちゃうから、待って」と何度子どもに言ったか。
それでも長女は母親が忙しい中、家庭教師や塾で勉強をした。Lilyさんは忙しい合間を縫って、塾が娘にあっているか、結果が出るか等を確認。夫はより柔軟な働き方ができるので、毎週月曜日を時短勤務にして理科を教えていたという。長女は無事に小学校修了試験(PSLE)を乗り越えた。
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