洗濯機で洗える「ほぼシルク」生んだ男の凄い発想 東レ研究者は「しんどい課題」をこう乗り越えた

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見た目は限りなくシルクの「Kinari」に込められた凄い熱意と技術とは?(写真:筆者撮影)
この連載では、社業を極める「オタク」たちに焦点を当てている。そこに仕事を楽しむためのヒントがあると思うからだ。
今回インタビューしたのは東レ・繊維研究所、研究主幹の増田正人氏。新技術“ナノデザイン”を開発、それによりシルクのような布「Kinari(キナリ)」の製品化に成功した。
なんと布の原料となる糸の形状を“ナノレベル”で設計しているという。一体どういうことなのか。増田さんが語る、驚くべく糸と布の世界とは――。

シルクらしさは「糸と糸が作る隙間」にあると発見

──合成繊維でシルクのような素材を作ることは、業界では永遠の課題だそうですね。増田さんは新技術“ナノデザイン”を開発され、それを使って2019年に製品化した「Kinari」は“限りなくシルク”といっていいような製品となっています。

Kinari を指でこすると絹なりと言って、キュッキュッと音がします。こういった天然シルクに近い特性を持ちながら、洗濯機で洗えて、プリーツ加工や撥水加工ができるなど天然にはない機能性を持っています。

最近は「見た目はきれいだけれども洗濯は注意してください」「機能はあるけれど着心地は悪い」では受け入れてもらえません。Kinariはその辺がうまくいっています。

──Kinariを開発するにあたって、どこからアプローチしましたか?

シルクのような素材感を追求したKinari(写真提供:東レ)

シルクらしい素材は、50年以上にわたり社内の先輩方が培ってきたものです。いまさら究極のシルクを作れと言われても、正直しんどいと思いました。

ただ幸いなことに、分析機器がどんどん進化しているので、天然シルクのよさをもう一度しっかり調べてみようと考えました。そこで、布になった天然シルクは空気を通しやすいという特性に気づきました。糸と糸の間に空間ができていて、この空間に特徴がありました。この特徴が出るような糸はどんな断面をしているのかを考え設計しました。

──そもそも、天然のシルクの糸の断面はどういった形をしているんですか?

綿・シルク・ウールといった天然繊維の糸を見ると、それぞれの生態が作った特徴ある形をしています。例えば綿は真ん中に穴があいた断面をしています。シルクは三角形のゴツゴツしたような形です。機能があるところにはすべて繊細な細工がなされているものです。

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