洗濯機で洗える「ほぼシルク」生んだ男の凄い発想 東レ研究者は「しんどい課題」をこう乗り越えた

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東レ・繊維研究所、研究主幹の増田正人氏(写真提供:東レ)

──天然素材の形状を、単純にマネするわけではないんですね。

そうなんです。空間の特徴が出るように設計をしていったら、天然のシルクに近い形になりました。

糸が布になるまでにはいくつもの工程があります。織り編みをして、熱をかけたり、染色したり、さまざまな液体の中で処理をしたり。そういった高次工程の段階で、糸がどう動くかはかなり考えました。

──糸と糸とが作る隙間が違うと、布はどう変わるのでしょうか?

光を当ててみると違いがわかります。従来のポリエステル繊維は、光が明瞭に返ってきます。それに比べて、天然シルクとKinariは光の反射がまろやかです。光が一方方向に返らないので、上質な、つや感、キレイといった印象につながります。

Kinariでは糸の束が作る表面の凹凸がより複雑になっています。従来のように形が均一だと、どうしても平らな面ができてしまいます。そこで強い光が反射してしまいます。

──均質に作ることこそ美しい光沢につながると想像していましたが、逆なんですね。

天然の蚕がつむぎ出すような糸は、おそらく1本として同じものはありません。ある領域のムラを持った素材です。それが天然のいいところだと言われています。

最近の衣料では「合繊っぽい」という表現も使われます。どうしても作った糸に見えてしまいます。天然シルクは繊維の女王などとも言われますが、やはり天然は永遠のテーマです。それを糸としてどうやって作るかを考えると、ある程度の範囲でムラを作ることになります。

繊細な細工を可能にした「ナノデザイン」とは

── “ナノデザイン”はナノサイズで糸の形をコントロールする技術です。ナノといっても1ナノと1000ナノではだいぶ違いますが、どの辺のオーダーですか?

衣服用の布に使われる糸は、やわらかい布でだいたい20ミクロンから30ミクロンぐらいです。その20ミクロンほどの糸に100ナノから1000ナノのスケールで細工を施します。糸1本の細さを追求する研究もしていますが、現在、製品開発で進めているのは、このくらいのオーダーが中心です。

──ナノスケールで細工をすると、具体的にどういったものができるのでしょう?

“解像度をあげる”という表現がイメージに近いと思います。より細かい点で描写したほうが、絵がキレイになりますよね。

Kinariの断面(画像提供:東レ)

たとえばKinariの断面でいうと、きちんとした三角形ではなく、辺がくびれていたり、頂点がえぐれています。こういうところが従来の技術ではできませんでした。今まではきれいな三角形しか作れなかったんです。

──この形にすると、布にしたときに糸と糸の間にねらった空隙ができるということですか? そんなことが計算できてしまうのでしょうか。

原理は簡単です。Kinariは、熱をかけたときに縮み方が違う樹脂を組み合わせています。そうすると熱処理をしたときによく縮むほうに糸がゆがみます。糸は長いものなので回転します。方向性をつけるために扁平にしています。計算できるんです。

どうしたらそうなるのかは勘が働く部分もありますが、わからないときは紙などで形を作ってみます。大きいスケールで作ってみていけそうだと思ったら、実際の繊維を作るというステップを踏みます。

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