洗濯機で洗える「ほぼシルク」生んだ男の凄い発想 東レ研究者は「しんどい課題」をこう乗り越えた

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──ナノデザインは工業的にはどうやって形をコントロールしているのですか? 合成繊維の糸は、よくある手法では、熱で溶かした樹脂を細い穴から出して、冷却して作りますよね。どこが違うのでしょう。

樹脂は、最初は1個の流れです。ナノデザインの場合、この流れをいくつにも分割します。分割して、細かい流れにいったん分けて、別れた点をつないでいくことで、複雑な形を作っています。細く分割した樹脂の流れを再集合させて1本の糸にする、つなぎあわせるところで形をコントロールします。

 ナノデザインは失敗から生まれた

──ナノデザインの発想は、どこから生まれたのでしょうか?

究極に細い糸を作ってみようというところが出発点でした。糸が細くなると安定的に製造することが難しくなります。例えていうと、水道の蛇口をいっぱいに開けているときは水柱が安定的にできます。ところが、蛇口を絞っていくと流れが揺れだして水柱がつながらないようになります。糸を作るのも同じで、細くするのはかなり難しいんです。

1ミクロンを切る程度なら当然できるとは思っていましたが、500ナノを切るとなると難しいと思いました。昔からある技術をしっかりと勉強しながら、新しい考え方を導入していかないと無理だと思い、いろいろ試しました。

──500ナノよりも細い糸を作る技術を研究していたら、20ミクロンの糸を500ナノあたりで細工をするナノデザインが生まれたんですね。どうやって結びついたのでしょう?

天然シルク、従来技術の課題を複数の点で乗り越えている(画像提供:東レ)

失敗がきっかけです。均質な断面を作りたいのに点と点がつながって、断面が崩れてしまうことがありました。ただ、この崩れ方にもパターンがあると気づいたんです。

ぐちゃぐちゃな状態でもパターンがあるということは、逆に、この形を作りたいと思えば作れるということです。これをもっと強化してやれば、断面全体がコントロールできると考えました。逆転の発想です。

──ナノデザインのどこがすごいと感じますか?

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ナノスケールは人間が感知できるような小ささではありません。けれども、そのサイズで細工を施すことで、布を少し揺すると光の反射がキレイだと感じるような陰影感だったり、見た目も機能性も付与できるようになります。これは、すごく不思議なことだと思います。

当然、私だけで素材ができているわけではありません。私たちのチームは糸を作り、次の工程に投げて最終製品になります。Kinariがドレスになったのを見たときには、率直に“きれい”と感じました。びっくりしましたね。

増田氏は技術者でありながら、美しいものを感じ取る力にも長けていると感じた。聞くと、匠が作る伝統工芸品に憧れているという。特に好きなのは漆塗りだ。漆のような黒は合成繊維では作りづらい。あくまでも個人としての話ではあるが、あの吸い込まれそうな黒を作れないかと思いめぐらせているそうだ。繊維研究歴およそ30年だという。知識と探究心は相当な深さだった。
高橋 ホイコ ライター

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たかはし ほいこ / Hoiko Takahashi

1976年生まれ。国民生活センター勤務を経てフリーライターに転身。ウェブメディアを中心に執筆中。企業の一風変わった取り組みへの取材を得意とする。趣味はホルン演奏、ピンクのガジェット収集、交通インフラの豆知識集めなど。トマトマンの斜め上行く生活術管理人。

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