「常識にうるさい人」ほど精神不安定に陥る理由 過剰な「べき論」はやがて自身を窮地に追いやる

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「コレステロール値が高いとよくない」と刷り込まれると、体調に全く問題なくても、「コレステロールを下げないとまずい」と、食事のたびに心配するようになります。「メタボは健康に悪い」と言われると、太ってもいないのに節制しないではいられなくなります「高齢ドライバーは危険だ」と思うと、のんびり安全運転の高齢者まで許せなくなります。

こうして、私たちの生活はがんじがらめになり、ストレスだらけになるのです。それでは、なぜ日本人は、「こうあるべき」という刷り込みを疑う習慣を持たないのでしょうか?

それは前回もお話ししたように、高等教育で、「刷り込みを疑う」教育をされずに、大学教授ですら「私の言うことを信じろ」という態度だからだと、私は考えています。

私が強く言いたいのは、日本人は「こうあるべき」を疑うトレーニングをしましょう、ということです。このようなトレーニングを受けていないからです。

「常識」は時代や環境によって変わるもの

私たちを取り囲む情報社会は、新しい思考フレームを次々に刷り込もうとしてきます。

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たとえば、コロナ以前のことを、思い出してみてください。夏場にマスクをつけたら、「オタクみたい」だとか「芸能人ぶっている」だとか、変人扱いをされかねませんでしたか? 上司への報告でマスクをしていたら「失礼だ」と叱られませんでしたか? お店でレジを打つ店員がマスクをしていたら、それにキレたお客さんのことがニュースになっていましたよね?

それが今では、マスクなしで人前に出ようものなら“マスク警察”の人たちに「どういうつもりだ」と詰め寄られてしまいます。

かように、時代の価値観、思考フレームなどは、すぐに移り変わるものなのです。「こうあるべき」も、時代によって移り変わるもの。だから1つの「こうあるべき」を絶対視なんてできません。

だからやはり、何事もまず、疑ったほうがいいのです。疑い続けることは、世界を前進させる力そのもの、人類が進化する力そのものだといっていいぐらいです。

和田 秀樹 精神科医

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わだ ひでき / Hideki Wada

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)、『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)など著書多数。

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