日本の女性の地位が今なおここまで低い根本要因 上野千鶴子「すべてのしわ寄せがいっている」

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決定的な問題は、機会の均等を与えられた女たちが男並みに競争できるのか。

日本型雇用は、以下の3点セットでできています。

①新卒一括採用と終身雇用
②年功序列型給与体系と家族給モデル
③企業と共存共栄型の企業内組合
上野千鶴子(うえの・ちづこ)/社会学者。1948年生まれ。京都大学大学院修了(社会学博士)。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。『家父長制と資本制』 (岩波現代文庫) 、『女ぎらい』(朝日文庫)、『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)など著書多数(撮影:梅谷秀司)

この3つのルールは女性を構造的、組織的に排除する効果がある点で、間接差別的だといえます。言い換えれば、家庭責任を負わない「専業主婦付きの男性稼ぎ主」に有利な構造になっている。

――雇用モデル自体が、男性に歩のある出来レースになっていたと。

ですから、結果としてこのルールのもとで競争して生き延びた女性たち――今、「女性初の〇〇」に就任している均等法1期生の特徴は、第1に婚姻率が低い。第2に子どもを産んでいない人が多い。そして第3に、子どもがいる場合でも母親が育児を手伝ってくれるなどの育児資源があるなどの特徴があります。

こうした均等法に対して、社会政策学者の大沢真理さんは「テーラーメイドの法律」と表現しました。初めてこのスピーチを読んだときは、感心しましたね。テーラーメイドとは「紳士服仕立て」という意味です。身に合わない紳士服を着られた女性だけが生き延びられる。だからこそ彼女たちは「女だから、という意識では仕事をしてこなかった」と言うんです。

そして、婦人服を着た女性は非正規になって、フルタイムで働いてもせいぜい年俸200万円です。こうして、女性の間に格差が生まれていきました。

ワーキングマザーは本人たちの負担増で支えられる

――2000年前後からは、育児と仕事を両立する女性「ワーキングマザー」が一般的になりました。ただ、彼女たちの毎日は過酷です。

その理由はハッキリしています。1991年に育児休業法が成立すると、出産後も就労継続する女性が増えました。いまや該当者の9割の女性が取得しています。フルタイムで働く子持ち女性が何を犠牲にしているかというと、自分の時間資源です。結果、家事労働を含めた女性の総労働時間はどんどん増えている。ワーキングマザーは、本人たちの負担増で支えられていることをデータが示しています。

ネオリベラリズム改革にとって、女性の労働力化は必須です。「産め、育てろ、働け」の要請に応える女性を、政治学者の三浦まりさんは「ネオリベラリズム的母性」と呼んでいます。諸外国でも女性の労働力化は進んでいますが、女性だけが負担を一身に負ってはいません。育児というケア労働をアウトソーシングするしくみを作ったからです。その1つが公共化、2つ目が市場化です。

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