日本の女性の地位が今なおここまで低い根本要因 上野千鶴子「すべてのしわ寄せがいっている」

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――経団連は今年、2030年までに女性役員の比率を3割にすると掲げました。

2015年に女性活躍推進法ができたとき、政府の素案には「各企業の女性登用状況を情報公開すること」「数値目標を掲げること」とありました。が、経済団体が猛反対し、政府はあっという間に引っ込めました。経済団体のいわく、数値目標は「民間企業にはなじまない」というんです。

――なじまない? 

つまり、政府という公権力が私企業に対して規制をするのはなじまないと。数値目標といってもあくまで努力目標ですから、強制力はありません。せめて数値目標ぐらい作らないで、変化が起こせるかと思いますが。

それが、2021年になって財界が変化したのはなぜか。外圧なのか、世間体を気にしているのか、本気なのか。私にはわかりません。ただ、今回も努力義務なので、実効性はゼロです。社外取締役よりも、社内の生え抜きの女性管理職の人材のプールをきちんと育ててほしいですね。

そうこうしているうちに、日本は二流国への道をゆっくり歩んでいます。女性にすべてのしわ寄せがいく中で、当然出生率は下がっていきます。日本と極めて似た状況にあるのが韓国で、出生率は0.84まで下落。昨年日本は1.36ですが、コロナ禍で下がるでしょう。韓国並みになるのもそう遠くはありません。

最も身近な異文化は女性

――今の経営者層は、年齢的に沈みゆく日本から逃げ切れるから現状維持でもいいかもしれません。しかし、若い世代は自分たちで現状を打開する必要があります。アドバイスはありますか。

打開したいですか? 若い世代には、泥船化した日本から逃げ出すという選択肢もありますよ。

あえていうなら、中間管理職を異文化と触れさせることではないでしょうか。最近、「オッサン粘土層」という言葉があります。企業トップは意外と柔軟な発想を持っているのに、彼らの考えはオッサン粘土層を通って下に落ちていかない。彼らこそ、社内で長時間労働をしていないで、出向や中途入社の拡大で異文化と触れ合い、自分たちと比較してみればいいのではないでしょうか。

そして、最も身近な異文化は女性ですよ。ただ、わきまえる女性や、男性社会と同化してしまっている女性を選んでしまったら、異文化は異文化でなくなりますからね。

『週刊東洋経済』6月12日号の特集は「これが世界のビジネス常識 会社とジェンダー」です。東洋経済では、あなたの身の回りのジェンダー問題についての情報提供を募集しております。「会社でこんな女性差別的待遇を受けた」「男性育休を推奨しているが、休業中にも業務メールが絶えない」など、お心当たりのある方は、以下の投稿フォームまでご意見をお寄せください。https://form.toyokeizai.net/enquete/tko2104b/
印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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