日本の女性の地位が今なおここまで低い根本要因 上野千鶴子「すべてのしわ寄せがいっている」

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ケアの公共化によって、子どもは待機児童にならずに全員が保育園に入ることができます。その引き替えに、所得税や消費税など、非常に高い国民負担率を引き受ける必要があります。いわゆる、北欧の福祉先進国モデルです。

ケアの市場化とは、ベビーシッターや家事使用人として安価な労働者を雇用すること。その供給源は移民労働者です。アメリカやシンガポールは、この市場化が進んでいます。

対して日本では、2つのオプションのどちらも使えませんね。日本社会は消費増税を含めて否定的ですし、移民を活用しようにも外国人労働者にこれだけ依存していながら長期的な移民政策すらありません。そこで女性にすべてのしわ寄せがきます。

外国でスピーチをするとき、私がこういうと皆さん非常に納得してくれます。「日本の女性の地位はなぜ低いか。それは、あなた方の社会にある選択肢が日本の女性にはないからだ。労働市場において、ジェンダーが人種と階級の機能的代替物になっているのだ」と。

もちろん、諸外国も30年前は似たような状況でした。それを、時間をかけて変えてきたんです。日本はというと、何の実効性もない法律は作りましたが、実情は何も変わりませんでした。

マミートラックの損失

――ワーママは、社内で「二軍」に下り、多くは男性と同じ出世ルートには乗れません。

育休明けのワーキングマザーを待ち受けているのは配慮という名の差別です。ジェンダー研究者はこれに「マミートラック」という概念を用意しています。

日本文化は、母になったら子育てが最優先という価値観が当たり前だとしているので、もし子どもをないがしろにして仕事にいったら、母親に非難が集まります。

会社側も、女性社員が妊娠したら「この人は自分の優先順位を仕事から私生活にシフトさせた」と判定する。つまり、戦力外通告ですね。それによって女性の意欲は冷却され、企業にとっても損失をもたらす。

これこそが、経済学でいうところの「外部不経済」、市場の外にある大きな損失です。女性の能力を無駄遣いしている。

――これだけ男女の格差が残っているにもかかわらず、最近は企業などでも「男女平等なんてもう古い、時代はダイバーシティーだ」といった言説がありますね。

ちょっと待ってください。そもそも、ダイバーシティーと男女平等は全然違う意味ですよ。企業は「男女平等」と言いたくないので、ダイバーシティーという言葉でごまかしているのだと思われます。

2つの概念の何が最も違うかというと、例えば外国人の社員をいくら増やしても、男性ならば妊娠、出産はしません。男女平等を実現するための最大の問題は、妊娠、出産、育児というケア労働を市場がどのように評価し、雇用制度に組み込むかです。

この問題に、多くの企業はまだ答えを出せていません。

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