新聞社を退社した私がたどり着いた「貧乏長屋」 広い家では磨かれない「コミュ力・知恵・工夫」

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ただ問題は、そんな斬新なイメージを持つにはロールモデルが欠かせないんだが、実際にそんなことをしている人が見当たらないことだった。そのような雑誌の特集記事でもあれば即購入するところだが、あいにくそういうものもない。実際にそういう暮らし(おしゃれな四畳半生活)をしている人も探してみたが、これも見つからない。

「おしゃれな四畳半暮らし」のお手本は時代劇にあり

追い詰められた私がふと思いついたのが、江戸の貧乏長屋である。

大好きな大衆時代劇を見ていてピンときたのだ。まさしく四畳半。貧乏などという名が付いているからつい「気の毒な家」と先入観を持ってしまうが、それを取っ払ってよくよく見れば、狭いながらもなかなかすっきりと暮らしているではないか。余分なものがない(貧乏ゆえ)せいか、薄目で見れば、ミニマムでおしゃれ、と言えないこともない気もする。

で、何より、それで実際に暮らした人がいるのだ。というか昔はそれが当たり前だったのである。つまりはロールモデルが何人も! どうやって生きていたんだろう? で、どんな暮らしだったんだろう? それはみじめな暮らしだったのか、そうじゃなかったのか……?

ということで、何はともあれ実地見学である。タイムマシンなどなくとも大丈夫。江戸東京博物館に実物大の貧乏長屋が展示されている。特に人気コーナーでも何でもないその前で、じーっと真剣な眼差しで30分ほど一人佇むアフロ。

まさに時代劇のまんまであった。本当に四畳半なんだね! だが驚いたのは、押入れがなかったことだ。まさしく収納ゼロ。現代の極小アパートのさらに上(下?)を行く世界だ。それでも問題なく暮らした人々が、ほんの200年前に当たり前にこの世に存在していた事実に、まずは素直に励まされる。

そしてやはり、狭いのになかなか美しい。ものがほとんどなくスッキリと整理整頓されているからであろう。そして現代のインテリア雑誌風に言えば、調度品が木や竹、陶器など「全て自然素材」というのもインテリア的にまとまりを演出している。プラステイックの家電品などない時代だから当然なんだけどね。

いずれにせよ総合的に見て、これぞ簡素な美と言えないこともない。うん、これぞ私の目指す「おしゃれな四畳半暮らし」と定義してもいい気がする。

だがよくよく観察するうちに、それを実現するのは並大抵のことじゃないこともわかってきた。

我らは「貧乏長屋」などと言って彼らを一段下に見ているが、とんでもないことである。ここで暮らそうと思えば、何はともあれまずは並外れた「片付け能力」がなければならない。

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