水槽は、体育館のような建物の中にあった。長さ35.5メートル、幅17メートルの水槽はいかにも屋内プールと言いたいところだが、まず、水深が浅い。約40センチだという。そして周囲の風景も違う。最先端の研究所というよりは、町工場のようだ。
水深40センチの水槽で、最大の高さが40センチに達する津波を再現できるというこの水槽には、30分の1の縮尺で陸地や建物が設置されている。高さ40センチの波は、12メートルの高さに換算される。沿岸は幅360メートル、奥行きが220メートル。そこに、5~6階建ての建物が2棟建っている様子が、30分の1のスケールになっている。
沿岸部の向こう正面には、跳び箱のような形の箱が8つ並び、それぞれの底の部分に8個ずつバルブが並んでいる。これが、波形コントロールのキーとなる装置だ。
「いいですか。大きな音がしますが驚かないでください。では、3、2、1!」
ドカン、シャーッ
織田さんがパソコンを操作すると、ドカンという音があたりの空気を揺らした。驚かないでと言われていたのに、驚いてしまう。
それから間髪を入れずにシャーッという音がしたかと思うと波が押し寄せ、建物にぶつかった水のカタマリは大きくしぶきをあげ、陸地はあっという間に水浸しになった。ドカンという音は、バルブが開放された音。シャーッという音は、水が流れ出る音である。
もし、水槽の中に立っていたら、体がかなり押されるという。陸地ではそこまでは行かないが、体に沿って波が上がってくるらしい。
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