そんなことを話しているうちに、陸からは水が引いていく。しかし、実際の津波はもっとゆっくり動く。
空間の縮尺が30分の1だと、時間の縮尺はその2分の1乗の、およそ5.5分の1になるからだ。ということは、この水槽での実験動画を約6分の1の速度でスロー再生すると、実際に人間が見た場合の津波を再現できることになる。
30分の1の人間の目の高さから撮影した動画をスロー再生して見せてもらったが、足がすくんだ。見た人から「リアルすぎる」という声が寄せられたというのも、よくわかる。
この手のシミュレーションは、コンピューターを使ってもできるが、そこには限界がある。衝撃的な力が建物に及ぼす影響などを知るには、このような水理実験が必要なのだ。
手作り感があふれる設備
大成建設がここで津波の実験を本格化させたのは2007年。その後、会社が水理実験施設の拡充を計画していたところに発災したのが東日本大震災だった。現在のような設備が揃ったのは夏。それまでの間、織田さんは居ても立ってもいらず、もっと手づくりの小さな模型で実験を行っていたという。
『もっと』とわざわざ書いたのは、この設備もかなり手づくり感に溢れているからだ。水槽はもともとあったものだが、8つ並んだ跳び箱状の箱は織田さんたちが図面を引き、設置されたバルブも市販品から探して、完成までの速さを優先させてつくりあげたもの。研究内容は最先端のはずなのに、なぜかアナログな雰囲気なのはそのせいだ。
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