野球でバッターが本気で嫌がる「変化球」の特徴 「キレがある球」「スピンの利いた球」って何?

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このジャイロ・スピン成分の強さは回転効率(spin efficiency)として表します。つまり、投手側から見たときの水平の回転軸で高速に回転し、きれいにバック・スピンしているボールでも、上から見たときの軸の方向が進行方向に向けば向くほど、バック・スピンは生じにくくなってしまいます。

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これは回転効率が低い状態です。ジャイロ成分が大きい(上から見たときの回転軸の方向が進行方向である)せいで、本来はホップして見えるような有効な回転なのに、このよさが打ち消されてしまうのです。このあたりが、回転を見るときの難しさと言えます。

回転効率は、ボールを上から見たとき、進行方向に対して平行に回転軸がある場合は0%で、投球方向に対して直角に回転軸がある場合は100%であると言えます。

ですので、投球をホップして見せたいときには、投手から見たときの水平の回転軸での回転速度を大きくして、きれいなバック・スピンをかけ、さらには回転効率を100%に近づけることが必要になるのです。最近、これらは「ラプソード(Rapsode)」と言われる、球質を測定する機器で測ることができます。

球質は、回転速度だけでなく、回転軸、回転効率、さらに投球速度を一緒に見ないといけないため、正しく理解するのが難しいのです。

変化球の正しい理解は難しい

さらに、実際に野球をプレーしている人や、野球観戦を趣味としている人にはご理解いただけるかと思いますが、変化球は「曲がればいい」というわけではなく、少し変化するだけで有効な変化球もたくさんあります。また、回転を少なくすることで、重力によって鋭く落ちるように見えるフォーク・ボールのような球種もあるため、余計にわかりにくいですよね。このため、変化球の正しい理解というのはなかなか難しいのです。

ここではこれ以上、球質について深くは触れませんが、変化球は基本的に、

① ほかの球種と区別がつきにくいために打ちにくいもの
② 見たことがない変化をするもの、軌道が希少なもの

が、試合の現場では有効と言えます。このように変化球は大変奥が深いものです。

川村 卓 筑波大学体育系准教授、筑波大学硬式野球部監督

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かわむら たかし / Takashi Kawamura

1970年生まれ。全日本大学野球連盟監督会運営委員、首都大学野球連盟理事・評議員。市立札幌開成高校時代には主将・外野手として1988年、夏の甲子園大会(第70回)に出場。筑波大学時代も主将として活躍。筑波大学大学院修士課程を経た後、北海道の公立高校で4年半、監督を経験。2000年12月には筑波大学硬式野球部監督に就任。2006年、秋季首都大学野球リーグ優勝を果たす。主にスポーツ選手の動作解析の研究を行っている。

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