「萌えキャラとして働く」彼女が流した涙の意味 「職業=自分の本名」支えたマーケティング思考

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私の本名は戸倉彩ですが、Twitterのアカウント名は”職業「戸倉彩」”としています。これは別に受けを狙っているわけでもなんでもなく、大真面目にこのアカウント名にしているのです。

私は、現職の日本IBMの前に日本マイクロソフト(以下MS)で、同社のクラウドサービスを開発者に広めるエバンジェリストとして働いていました。普通のエバンジェリストではなく、MSの開発した萌えキャラ、「クラウディア窓辺」のセリフを考えるなど、いわゆるキャラクターの「中の人」をやっていました。

それだけではなく、自分自身も髪をキャラクターと同じ金髪に染め、赤い眼鏡をかけるなど、コスプレをしてお客さんのもとへ行ったり、イベントやコミケに参加したりしていました。最終的には、普段の勤務中もずっとコスプレに。周囲も私のことを「クラウディア」と呼ぶようになり、自分と「クラウディア窓辺」の境界が、だんだんあいまいになっていくのを感じました。

「クラウディア窓辺」のコスプレで、さまざな講演会や顧客訪問をこなしたという(写真提供:戸倉彩)

なぜそんな奇天烈なことをやっていたのかと言うと、私が入社した2011年ごろは「MS=Windowsの会社」という印象がすごく強く、またクラウドのスタートも遅かったこともあり、私が担当していたクラウドサービスにエンジニアの人たちの興味を惹くことができなかったのです。

それどころか、MSはLinuxに代表されるオープンソースで、いろいろなソフトウェアを共有する人たちを非難していた過去があったので、MSのクラウドサービスに対しては、エンジニアの人からすごく冷ややかな目が向けられていました。

とはいえ、エバンジェリストとしては、まずサービスの内容を知ってもらわなくては話が始まりません。そこで「MSの社員という枠を超えるためには、人間ではなく萌えキャラのほうが、開発者の人たちとの親和性が高いのではないか?」という考えに至り、それを実践しました。

すると話を聞いてくれる人が増え、段々と「クラウディアさんがお勧めするならやってみよう」というポジティブな反応が返ってくるようになったのです。

「クラウディア窓辺」から、職業「戸倉彩」へ

その後、5年以上「クラウディア窓辺」をやっていたのですが、萌えキャラなどのサブカルに対してはさまざまな受け取り方があって、市場を大きく広げるにはベストな手法ではなくなってきました。もともと、私は自分が表に出たいタイプではなく、開発者を増やしたいとか、必要なテクノロジーを世の中に広めたいと感じながらIT業界で生きてきたので、この点は矛盾を感じていました。

また、「クラウディア窓辺」をやっていたことに対しても、「本当の戸倉さんを見せたほうがいい」と言われることも多く、本当の自分が出せてないことに、自分でも気がついていました。

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