野村、アメリカの"大損"で新戦略に漂う暗雲 顧客との取引で20億ドルの損失が出る可能性
利益が上向いたのは、コロナ禍を抜けた営業部門が尻上がりに伸びたことや、ソフトバンクグループの子会社株売り出しやANAホールディングスの巨額増資といった大型の引き受け案件が投資銀行部門で増えたことが大きい。また、日本橋の通称「軍艦ビル」再開発関連の利益約700億円も寄与した。
特に好調だったのはホールセール(法人向け部門)の市場部門だ。期初から金融緩和を受けてアメリカの債券売買仲介が急伸。法人向けの株式取引も前年同期比で約1.5倍(金融費用控除後の収益ベース)の水準まで増えた。際立つのは米州からの利益で、前年同期比約4倍に膨らんでいる。
ところが絶好調だった米州で、冒頭に触れたように多額の損失が発生する可能性が出てきた。ただ、仮に約2200億円の損失が発生しても、野村HD全体としてはすでに稼いだ利益で吸収できるため、財務基盤の毀損は避けられる。むしろ、気がかりなのは今回の問題が及ぼす中長期戦略への影響だ。
社債発行中止の影響度
野村HDは約2200億円の損失可能性と同時に、3月24日に発表した約32.5億ドル(約3575億円)の社債発行を中止すると発表した。社債発行の目的は「野村証券を含む子会社への貸付」としか明示していないが、この資金調達で仮に大型のM&Aなどを計画していたとすれば、時機を逃す可能性がある。
【2021年4月6日15時5分追記】初出時の格付けに関する表記を一部修正いたします。
加えて、野村HDの企業としての信用力を示す格付けが見直されている。格付け投資情報センターがA+からAに引き下げたほか、ムーディーズ・ジャパンは格付け見通し(Baa1)を安定的からネガティブに変更した。事態の収束後に再度起債するとしても格付けが悪化すれば資金調達コストが上昇する。アメリカの金利上昇が続く中で、社債の発行が遅れるほど将来の調達コストが増えてしまう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら