「汚部屋そだちの東大生」描いた彼女の壮絶半生 就職してからようやく自分を客観視できた

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子育てをするうえで、自分にも気をつけている。

「上の子もまだ2歳なので、親子の対立にはなっていません。ただ食べ物を残したりすると

『せっかく作ったのに……』

と言いそうになりますが、母親がチョコレートケーキを捨てた姿を思い出して思いとどまります。

いつも無自覚のうちに母のようなことを言ってしまうのではないか? という恐怖はあります。虐待を受けた人が『負の連鎖をつなげるのがこわいから子どもを作らない』と言っているのを聞いたことがありますが、気持ちは本当によくわかります。

ただ『気をつけなければならない』ということが自覚できているうちは大丈夫なのかもしれない、とも思っています」

会社で働きながら、子育てもする、忙しい日々をすごしながら昨年『汚部屋そだちの東大生』の連載をはじめた。

「汚部屋に住んでいた時代の話」を描いた理由

なぜ今になって「汚部屋に住んでいた時代の話」を描こうと思ったのだろうか?

『汚部屋そだちの東大生』(ぶんか社)。3月10日発売。本作と同内容の電子単行本は1巻、2巻と分冊配信し「ebookjapan」で4月15日(木)より先行配信。その後、4月29日(木)より全電子書店配信する

「毒親モノの漫画を読むと『性根の曲がったお母さんが主人公をいじめる、暴力を振るう』みたいな極端な話が多いように感じました。でも私の家はそういう感じではなかったです。

『本当に優しい人が真綿で首を絞めるように何年も何十年も苦しめてくる虐待があるんだよ』

というのを伝えたかったんです。

見た目がボロボロだったり、怪我してたりしたら、周りの人に気づいてもらえると思います。でもそうじゃなく、普通に生活しているように見えている人の中にも、実は虐待の被害者はいるんですよ。

そういう繊細な状況は、ストーリーをつけて漫画にしたほうが伝えやすいのではないか? と思いました。

執筆は、自らの半生を客観的に振り返りながらの作業になりました。描きながら気づくこともたくさんありました。母親に関しても『このとき、母はこんな気分だったんだろうな』とか想像しながら描きました」

作品はLINEマンガでも掲載されていたため、作品についたたくさんのコメントを読むことができた。その中には

「漫画を読んで、自分の家が汚部屋だと気づきました」

「自分の家もハミ山さんの家と同じような環境なのですが、家から抜け出ることはできず、今は無職です」

など、切実なものもあった。

また、

「『会社に娘は出社していますか? 取り次いでください』

という不自然な電話がかかってきたが、この漫画を読んでいたので取り次ぎませんでした」

というコメントもあった。

ハミ山さんは、ひょっとしたら、漫画で誰かを助けられたのかもしれないと思った。

「汚部屋やゴミ屋敷の問題って誰が悪いというわけでもないと思うんです。メディアでは、汚部屋の住人を悪者にしてしまう場合もありますけど、ただ責めるのではなく、救っていくことのほうが大事だと思います」

『汚部屋そだちの東大生』が話題になったあと、新たな仕事の依頼も来ているという。

「現在は新たにストーリー漫画の連載の準備をしています。これからも新しい作品をお届けできるよう頑張りたいです」

とハミ山さんはとても前向きに話を締めくくった。

壮絶な半自伝的作品を描きあげたハミ山さんが、今後どのような漫画を描くのか、楽しみに待ちたいと思った。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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