横浜高島屋に「地元のパン」大量に並ぶ深い理由 横浜発「パンのセレクトショップ」の壮大な狙い
催事に出すパン屋は、矢野氏が個人的に持っていた得意先で、横浜各地のパン屋から「パンがおいしくて、オーナーと話すと思いやこだわりがあることを基準に選んでいた」。営業を続けるうちに、得意先のパン屋は、80~100店にもなった。パン屋オーナーと話すうち、矢野氏は「『いつ寝てるんだろう』と思うほど働いている人や、悩んでいる人。新しく始めようと考えている人。いろいろな人がいる」ことに気がついた。しかし、彼らがこんなに思いを持っているのに、誰も知らない。
「今はパンブームです。パンフェスではお客さんがウワーッと買いにくるけど、店や職人さんについての説明はあまりない。業界外の人が製造販売する生食パンは、大御所の中に『あんなのパンじゃない』と思っている人もいるのに、行列ができるから何も言えない。みんなが寝ている時間から仕込みをして、大量生産できないパンを一生懸命焼いているパン屋に、ちゃんとスポットを当てたい」(矢野氏)と考えるようになった。
催事で出会った2人
2017年秋頃、矢野氏は横浜市の移動販売のパン屋「エッセン」の営業として、百貨店の催事で売る中島慶氏と出会う。
矢野氏は「めちゃ大きい声で売る人がいるな。ものすごく売って、またいなくなるあの人は何だろう」と思っていた。中島氏は数店出す催事の営業で、各店を回っていたのだ。
中島氏も矢野氏が気になっていた。「僕は、1つのブランドの知名度を上げるべく10万円分も売って実績を積み上げているのに、矢野さんは出るたびに違うパン屋のパンを10万円分売る。意味がわからない」と関心を持った。
中島氏は2年ほどすると、催事やイベントでパンを売ることは、パン屋の利益に結びつかないと考え始める。「催事にいっぱい出し、バイトを入れて常設店も出した。しかし、ものすごく薄利で継続性もないことに気づきました。パンフェスもたくさん出ました。こちらはギリギリ利益が出ますが、わずか1週間のために、失うもののほうがはるかに大きい。こんなものに、継続性はないと判断しました」と、中島氏は話す。
「そこで卸をやろうと、スーパーやドラッグストア、学校などいろいろな営業先を30件ほど開拓しました。多少は利益が出るんですが、今度は相手にハンドルを握られている。買いたたかれる、脅される、競合も出てくる。
しかも365日稼働しないといけないし、営業と販売の人件費がかかる。配送コストやロスも考慮に入れないといけない。さらに、卸用のパンは食品添加物や原料、栄養成分などの表示を入れる作業の負担が大きい」
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