この1文字で「論語と算盤」の精神がわかる! 3分で解説!なぜ、いま「渋沢栄一」なのか?

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ちょっと長くなりましたが、ここに『論語と算盤』のすべてがあると私は思います。「論語(道徳)と算盤(経営)を一致させること」が極めて大切な務めであることを言っており、それは「よい金儲け」とイコールです。逆に、道徳を無視して金儲けに走るのは、「悪い金儲け」ということになります。

「との力」が新しいものを生み出す

渋沢栄一の『論語と算盤』について、もう1つ覚えていただきたい言葉があります。たったの1文字です。それは「と」です。
と? 疑問に思った方も多いと思いますが、「との力」を持つことの大事さについて考えてみたいと思います。

「との力」に対して、もうひとつ大きな力があります。それは「かの力」です。「か」というのは、orです。右か左か、上か下か、白か黒か。何かを進めるに際して、物事を区別し、選別して進めることで効率性を高めることができます。それが「かの力」です。

「かの力」は、日常や仕事などあらゆる場面で必要不可欠なものですが、「かの力」だけでは、無から有を生み出すことができないと思います。新しいクリエーション、創造につながらないのです。なぜなら「かの力」は2つの有を比較して選別するだけにすぎないからです。分けて隔離すれば、そこからは化学反応、つまり、新しいクリエーションが生まれないのです。

一方、「との力」は、一見すると矛盾しているようなもの同士を組み合わせることによって、そこにある条件が整うと、化学反応が起こり、それまで考えつかなかったような新しいものを生み出す力と考えることができます。

『論語と算盤』は典型例です。算盤をしっかり勉強して、ある程度理解が進んでから論語の勉強をするとか、仕事をするうえでも算盤勘定は後回しにして、まずは道徳を重視して仕事を進めるという人は多いと思いますが、渋沢栄一が言っているのは、「論語と算盤に優劣をつけることなく、一緒に進めよう」ということなのです。

確かに、「との力」は、一見すると矛盾していますし、なかなか答えが出てきません。「との力」を用いることによって何が生まれるのかがはっきりするためには時間がかかりますし、それが見えてくるまでじっと耐える忍耐力も必要です。おそらく何の成果も出てこないうちは、ただの無駄にも思えるでしょう。

でも、その時間の経過をじっと耐えているうちに、矛盾や無駄の中から、「あ、これはいける!」というものが、パッと眼前に現れます。それによって飛躍が生まれます。

その能力を発揮するためには、『論語と算盤』の根幹をなす「との力」を十分に発揮させることが肝心なのです。渋沢栄一は、「との力」を原動力に、次々と新しいことに挑戦し続けたのでしょう。

いま目の前に渋沢栄一が現れたとして、コロナ禍の対応策で大事なのは、感染防止か、経済活動かと問えば、「感染防止と経済活動」と、きっと答えるでしょう。「との力」が求められるいまだからこそ、いま渋沢栄一が注目されているのだと、私は思っています。

渋澤 健 シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役、コモンズ投信会長

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しぶさわけん / Ken Shibusawa

国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。

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