52歳で発達障害と診断された男性が訴えたい事 何十年も「失業」と「ひきこもり」を繰り返した

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出口が見えないトンネルのような半生の中で、ようやく得た発達障害の診断。キヨタカさんは「原因がわかってホッとした気持ちと、もっと早く教えてほしかったという気持ちの半々でした」という。自分と同じような目に遭う人が少しでも減るようにと、ウェクスラー式知能検査の受検を義務化したほうがよいと訴える。

取材で話を聞き始める前、キヨタカさんは私に対して次のように言ってくれた。

「発達障害の特性で話が止まらなかったり、内容が飛んだりすることがよくあります。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、脱線しているときは話をさえぎってくださって構いませんので『話がずれている』『質問の答えになっていない』と指摘してくださいね」

発達障害の診断を受けて以来、初めて会う人には、同様の説明をしているのだという。

また、最近は人間関係やコミュニケーションに関するハウツー本を片っ端から読んでいる。これらの本を参考に行動を改めたところ、驚くほど人間関係がスムーズになったという。

「お返しひとつにしても、コーヒーを1本渡すだけで、その後のコミュニケーションがうまくいくようになるということを知りました。私の場合は正直、感謝や申し訳ないという気持ちからの行動というよりは、このように行動すれば人間関係がスムーズになるということを学んでいるという感覚です。でも、そのことに気づけただけでもよかった」

「発達障害の私も努力します、だから…」

取材中、キヨタカさんはたびたび質問の内容を確認したり、「脱線しそうになってますよね」といったん話しかけたことを止めたりと、会話がスムーズにいくよう懸命に努力していることが伝わった。診断をきっかけに発達障害の特性からくる問題をなんとか抑えようとしているのだ。「問題を発達障害のせいにするな」といわんばかりの「診断に対する注意点」など必要ないと、あらためて思った。

50歳すぎてからの再就職はただでさえ厳しいだろう。キヨタカさん自身、この後も引き続き一般雇用枠で働いたほうがよいのか、待遇は下がっても障害者枠で働いたほうがよいのか決めかねている。キヨタカさんの願いはささやかだ。

「発達障害の私も努力します。だから発達障害ではない人たちもどうかもう少し私たちに歩み寄ってほしい」

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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