52歳で発達障害と診断された男性が訴えたい事 何十年も「失業」と「ひきこもり」を繰り返した

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80代の高齢の親が50代のひきこもり状態の子どもと同居する「8050問題」。キヨタカさんは「うちはまさに8050問題の真っただ中にいます」と打ち明ける。

キヨタカさんにしてみると、何十年にもわたって失業とひきこもりを繰り返した末、50歳をすぎてようやく病院にかかったのだった。冒頭で紹介した「診断に対する注意点」と書かれた書類を渡されたのは、本人や家族の問診、発達障害の診断の参考にされるウェクスラー式知能検査などを終え、後は診断結果を聞くだけというタイミングだった。医師から書類について説明を受けながら、キヨタカさんは複雑な思いになったという。

「私にしてみたら、これまでの生きづらさに何らかの説明がつけばという藁にもすがる思いで病院に行ったわけです。それなのにただの甘え、やる気、気合の問題と、今まで散々言われてきたことを病院でも言われているような気がしました。下手に反論すると診断をしてもらえないのではと思い、医師には『はい、わかりました』と答えました」

医師によってばらつきがある「診断基準」

果たして診断結果は「ADHD (注意欠陥・多動性障害)。ASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)の傾向もあり」というものだった。

話はずれるが、ここで私が発達障害当事者の人たちの取材を通して疑問に思っていることについて少し言及したい。

それは医師による診断基準のばらつきだ。例えば、「大学を出ているのに発達障害のはずがない」「話し方が発達障害らしくない」などという謎の理由で門前払いを食らう人がいる一方で、受診したその日にいとも簡単に発達障害と診断されたという人もいる。そうかと思うと、即日診断された挙句、そのまま精神科病院に強制入院させられた人も知っている。

また、障害年金の受給に必要な医師の診断書についても、就職ができないのに、障害年金の等級を下げられて年金が受けられなくなった結果、やむをえず売春をしていると打ち明ける人がいるのに対し、「初日に診断してくれたうえ、年金受給に必要な等級が出るような診断書も書いてくれた」と話す人もいた。

発達障害の診断は、最終的には医師による総合的な判断によってなされる。一方でウェクスラー式知能検査においては、各指数の数値に15以上の凹凸がある場合は障害ありと判断される可能性が高いなどの客観的な基準もある。キヨタカさんのケースについていうなら、必要な問診や検査も行っているのだから、後は医師が経験と知見に基づき判断すればいいだけの話だ。診断を受けるための“交換条件”と受け止められかねないような「診断に対する注意点」など、“ドクターハラスメント”と指摘されても仕方がないのではないか。

キヨタカさんによると、担当医は彼の職歴を見て「これだけいろいろなところで働いてきたんだから、就職はなんとかなるよね」とも言ったという。暗に障害年金の受給に必要な診断書は書けないという旨のこともいわれたという。キヨタカさんは「いろいろなところで働かざるをえなかったことこそが、私の困りごとなのに……」と途方に暮れる。

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