コロナと原発、日本の「危機管理」に通じる弱点 「小さな安心」を優先し「大きな安全」を犠牲に

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物資や危機ガバナンスの「備え」がない中で、平時から危機時に切り替えるためには強力な政治的リーダーシップが必要となる。しかし、原発事故では、原子力災害対策本部長である首相が福島第一原発や東京電力本店に乗り込み、強い言葉で叱責するなど、危機時に政府全体を主導するよりも、マイクロマネージメントに固執した。

ただ、危機を乗り越えるためには東京電力との協力が必要との認識に立ち、超法規的な措置とはいえ、政府・東電統合対策本部を設置し、細野豪志首相補佐官を派遣して東電と調整しながら指揮を執る体制を確立した点は評価できるであろう。

この点は新型コロナ対応でも共通する。危機の初期段階においては学校の一斉休校を専門家に諮ることなく判断し、根回しもないまま突然発表するなど、現場を混乱させるような判断が見られた。

しかし、こうした国民の不満を小手先の政策で解消することが感染拡大を防止する結果には結びつかないと見るや、専門家会議を重視し、科学に基づく判断を優先するようになった。その間、専門家が前面に出て「前のめり」と言われる形で情報発信したことで、政治の役割が小さくなったように見えるという副作用もあった。

専門家の役割とリスクコミュニケーション

専門家の役割とリスクコミュニケーションは、福島原発事故と新型コロナ対応を分ける1つのポイントである。福島原発事故では班目春樹原子力安全委員長が首相の補佐をする役割を担ったが、その立場は受動的であり、積極的な情報発信や国民に対するコミュニケーションが不足していた。

さらには小佐古敏荘内閣参与が小学校校庭の放射線量を年間20ミリシーベルトにするという文科省の決定に涙の抗議を行ったことで国民の放射能の拡散に対する不安を高め、福島に対する偏見や風評被害が強く残る結果となった。

しかし、新型コロナ対応では、尾身茂専門家会議副座長が前面に出て、国民に対する説明を行い、「三密を避ける」や「新しい生活様式」といった覚えやすい言葉で国民にリスクを理解させ、行動変容に結び付けたことは評価できるであろう。

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