株主に届かなかった神戸製鋼経営陣の危機感 関心があるのは増資よりも復配?

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だが、一部の株主からは、三井不動産が5月に公募増資を実施したにも関わらず、好調な株価を維持していることを引き合いに出し、「神戸製鋼の場合は株価が低迷したまま。株主に大きな損害を与えていることをどう思うか」と、厳しい質問も出た。

それまで淡々と株主総会を運営していた川崎社長は「短期の運転資金や負債の返済(など)、短期的な視点ではない。(増資で得た資金を高炉集約や海外工場設立の費用に充てることで、)いずれも将来の神戸製鋼所の企業価値を高めるものと確信しております」と、語気を強めた。

共有できなかった危機感

川崎社長は昨年春に経営トップに就任して早々、体質改善のため神戸製鉄所の高炉を2017年に休止する決断をした。同所は神戸製鋼が初めて高炉を建設した場所で、1995年の阪神淡路大震災をくぐり抜けた象徴的な存在である。経営陣には、その高炉の休止を判断せざるをえないほどの危機感がある。

加古川製鉄所の高炉(写真)は操業を継続する

にもかかわらず、総会で出た株主の質問は、そうした経営陣の切迫感からは程遠い内容が目立った。ある株主は総会後に「相変わらず、的外れな質問が多い。質問した株主は、復配すればそれでいいと思っているのだろう」と、ため息をついた。

ただ、経営陣にも歩み寄りが必要かもしれない。別のある株主が「ひな壇に座っていないで、欧米企業のように株主と積極的に交流会を持ってはどうか」と問いかけたが、「貴重なご意見として賜ります」(川崎社長)とつれない回答をするばかり。危機感を声高に訴えるだけでなく、ちゃんと株主に伝わるような努力も求められる。

10時ちょうどに始まった総会は前年より10分ほど早い、12時03分に閉会。大規模増資を行ったにもかかわらず、復配したせいか、おおむね波乱のない総会だった。会社が提案していた役員と監査役の選任という2つの議案は、賛成多数で滞りなく可決された。

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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